〜1巡目〜 おおきなくりのきのしたへ

初めまして。朝風と申します。53歳と皆さんより年老いていますが、怪談話には自身があります。では参りましょうか。


〜〜〜


辺境の村の昔話をしよう。ただの村ではない。

日本の中でも特に消滅が心配されている

限界集落だ。

路上には草が生い茂り、放置された

伊予柑の木は道まで枝を広げている。

まあ、こうなって当然だろう。

少し余談が長びいてしまった。駄弁をした

愚かな私を許して欲しい。では語ろう。

贄の文化が招いた恐怖の物語を…


………………………………………………

山は秋の気配に包まれていた。

葉は黄色や赤に色づき、稲の

穂が風に揺れていた。


「つまらない景色だ。」

視線を山に移しているこの男。名を

手塚てづか久道ひさみちという。

伊予国の旗本であったが、没落し、この地に

流れ着いた。


…………………………………………………


「あまりにも穏やかな土地だ。本当に、私の願いを叶えてくれる栗の木はあるのか?」

来てしまったからには仕方ないと思ったか、

正しい噂かを村人に聞いて回っていた。


「なんでも叶う」誰もがそう言った。


「贄を捧げれば」この注意を添えて。


おっかないと思ったか、久道は逃げ出した。


・・---・-・・-・-・-・・・・・………

鬱蒼とした森の中、久道は馬を走らせた。


「ここは危ない所だ。山を降りよう。」


いななきが山にこだまする。

二里ほど走らせると、

桃色の眩い光が彼の目を焼いた。

とてつもなく立派な栗の木がそこにあった。


「とても綺麗だ。もしや、これが願いを叶える栗の木なのだろうか?」

「礼を言うぞ。存在を教えてくれた民よ。」


輪のようなった木の洞に、彼は手を入れた。

練乳のような樹液が彼の手を包み込んだ。

「私は高貴な者だ。そなたに贄はやらん。

力だけ貸して頂こう!」


……………………………………………


こうして、久道は贄を捧げなかったので、

自身が贄になった。


これだけで済めば良かったのだが、栗の木が彼の邪念を取り込んでしまい、村や麓の城下町を襲うようになってしまった。その被害は凄まじく、ひどい時には城下町の半分を焼いたそうだ。


ーそれからというものの、1年に1度、邪念を鎮めるために贄を捧げなければならなくなった。


これでこの話は終わりだ。

昔からの掟を破ったらどうなるか…

それが、この話から伝わってきただろう。


なに…そろそろおいとましたい…と?


残念だけどそれは叶わない事だ。


何故だって?



あなたが『栗の木の贄』として献上されるからだ。


そんなの聞いてない?冗談は、よして?



忠告をしたのに、あなたは逃げなかった。

つまり、贄になりたいということだろう。


この選択は変えられない。

さあ、私と共に来るのだ!


………………………………………


むかし、むかし。


あるお山に、願いを叶える栗の木がありました。人々は山で獲れた鹿や猪を贄として捧げ、豊作を祈っていました。


ある日、噂を聞きつけた1人の強欲な男が栗の木に近づき、贄を捧げずに栗の木の恩寵を受けようとしたのです。


これに激怒した栗の木は男をその邪念ごと取り込み、人々を襲い始めました。


困り果てた人々は贄として若者を1人、生贄として捧げる事にしました。

これが効いたのか、1年に1度の生贄を欠かさない限り、人々が襲われるような事は無くなったのです。



過疎化が進んだ今でも、外から若者を連れてきて、生贄として捧げています。


こうして、この地の平和は今でも守られ続けているのです。



どうですか?これでこの話はおしまいです。

また次の話でお会いしましょう。


ポッ…

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