キモデブ無双

砂嶋真三

第1章 『高校1年生 ボッチ少女を救え!編』

プロローグ

 入学式を終えた翌日が、実質的には高校1年生としての初日になる。

 

 俺――細臣ほそおみ 拓哉たくやは、どう行動するべきか迷っていた。

 

 自己紹介などをさせられたHR終わりの休憩時間。

 前の座席に座っている女子が、不良オーラを放つ男ふたりに絡まれているのだ。

 

「星河久しぶりじゃーん。なんか、呼び辛いけど、星河って」

 

 ヘラヘラと嫌な笑みを浮かべて、不良Aが星河と呼んだ女子の机を軽く蹴った。

 

「お前、よく来れたな? ああ?」

 

 それを見ていた何人かの女子は、止めるどころか、クスクスと笑っている。

 

「ま、今年もよろしくね~。可愛がってやるからさ~」


 不良Aは、星河の肩をポンポンと叩き、さらに耳元で何かをささやく。

 ア・バ・ズ・レと言っているのが聞こえた。

 

 イジメられ続けてきた俺には分かる……。

 星河という女子は間違いなくイジメられっ子コースに乗った。

 

 おそらく中学時代からの因縁でもあるのかもしれない。

 ただ、俺は学校選択制を利用したので、中学時代の事情は分からなかった。

 

 そして――、

 

 俺は決定的なミスをおかした。


 ガラガラ、と椅子から立ち上がったのだ。

 横にも縦にも大きな俺は不良どもを見下ろす形になった。


 不良2人が、なんだ?──という感じでこちらに注意を向ける。

 図体ずうたいと反比例する勇気を振り絞って俺は口を開いた。

 

「や、やめ、やめろ……ょ……」

 

 ノープランかつ勢いまかせに、そのひと言を放ってしまったのである。


 これまで溜まりにたまったイジメへの怨みがそうさせたのかもしれない。 

 あるいは、高校という新しい舞台で何かを変えたかったのだろう。

 

 だが――、

 

「ああん!?」

 

 と、不良Aが、顎を突きだして俺の胸倉を掴んだ。

 不良Bも星河から俺にターゲットを変更。

 

 この展開で、俺の勇気は急速にしぼんでしまう。


 腕力だって俺の方が強いはずなのだ。カラダも大きい。

 それでも、俺に染み付いた負け癖が、戦う意欲をそいでしまった。

 後は、不良どもの為すがまま……。

 

 こうして、カースト最下層での高校生活が始まったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る