転生令嬢の異世界再生事業!

sao

新たな人生

プロローグ

…思えば、つまらない人生だったと思う。


私は家族から愛されることはおろか、期待されることすらない子供だった。父からは当たり前というように、サンドバッグのように殴られ、母からはいつもヒステリーに怒鳴られぶたれていた。


私には兄と妹がいた。けれど、両親からの被害は何故か私だけだった。それは小学生になっても変わらず、この頃にはすっかり表情がない暗い性格になっていた。当然友人はおらず、孤独な毎日を過ごしていた。皆が居間で食事をしていても、何故か私だけキッチンの床に置かれた冷たい料理を食べなければならなかった。いつだってそれが当たり前だった。



いつの頃かはもう忘れてしまった。私は薄暗い部屋に閉じ込められ、食事すらろくに貰えなくなっていた。


なぜ私だけがこんなに辛い思いをしなくてはならなのか、と何度も何度も、呪いのように呟やいていいた。


中学校にあがった頃だっただろうか。母が年下の若い男と家を出ていった。父は怒りで今まで以上に私を殴るようになり、お酒をひどく飲むようになった。その度に苛立ちを私に向けてきた。いつ殺されるだろうと恐怖があったが、同時に死んだら楽になれるだろうかとも思うようになった。


高校生になっても地獄のような日々は終わらなかった。学費は兄や妹は出してもらったのに私だけ出してもらえなかった。この頃にはもう、兄弟と比べて『何故?』とは思わなくなってしまっていた。


学費のため、アルバイトをかけもちし、なんとか卒業ができた。アルバイトと家、学校を往復する毎日。本当にさみしい学生生活だったと思う。高校を卒業後、不況だったがなんとか仕事が見つかった。ようやく私にも運が向いてきたかと嬉しかった。


だが、現実は本当に私に地獄しか与えたくなかったのだろうか。朝から夜遅くまで働き、家に帰る時間があるのであれば、職場で寝たいと思うほど最悪な、いわゆるブラック企業だったのだ。しかも、そんな環境で必死に働いた給与は、父に勝手に取られていった。何か言おうとすると殴られ、幼い頃より刷り込まれた恐怖は私に何も言えなくしていた。私の給与は兄と妹の大学費用に消えていった。2人は私がどれだけ辛い思いで得た給与か知っていたはずだ。それなのに、アルバイトもせず、恋人や友人と楽しんで、まさに青春を謳歌していた。兄は卒業後は大手企業に、妹は公務員、とエリート街道を歩んでいた。だが、もとがダメ人間な2人は、給与のほとんどを遊びに費やしていた。困った2人は父に泣きつき、結局私が払うことになる。


もう限界だった。いつまで家族の奴隷でいなくてはならないのか。


意識が薄れていく。ここ最近、お金がなく食事もろくにとっていなかった。身体が思うように動かない。何か食べないと本当に死んでしまいそうだった。


家に帰ってドアを開けてすぐ、お酒を飲んでいる父にお金を返してくれと言った。お酒を飲んでいたのもあっただろうが、苛立った父は怒鳴りながら私に飲んでいたビール瓶を投げつけた。


自宅は築40年のボロアパートの2階で、私は帰宅後ドアを開けっぱなしだった。ビール瓶は私の頭に直撃し、その勢いで私は2階から落ちてしまった。


遠くで女性の悲鳴と、多くの人の叫び声がしていたが、私は声を出すこともできなくなり、次第に意識がなくなっていった。


 

あぁ、ようやく解放させる。うれしい。こんな、うれしいことって生まれてから初めてだ。ようやく解放される。さようなら!さようなら!!


私は、来世に期待します。神さま、どうか次こそは多くは望みませんので優しい家族でありますように……

そうして私のこの世界は終わった。





・・・・・ではなかったんでしょうかねー?


意識が浮上してくる。


―ここはどこなんでしょうか?


目を開けて最初に飛び込んできたのは暗く、見覚えのない部屋だった。


―ここは私の部屋じゃない。いったい何が起こっているんだろう。


状況を確認しようと思ったが、何故か起き上がれない。しかも、頭が重いのかなかなか顔を横に向けることもできなかった。

何とか力を振り絞って首を横に倒すように傾け、横を向いたことにより見えた自分の手――恐らく感覚的に自分の手だと思うが、めちゃくちゃ小さい手だった。


―えっ? これが私の手? ちっちゃくて、ぷにぷにとした手。もしかして赤ちゃんの手じゃっ!


「あうー、あぁあうーー」


しかも声も高く、上手く話せない。かなり混乱しているが、こういうときこそまず、冷静になって状況を判断しなくては。頑張ってなんとか足を動かしたり、身体を小さい手でペタペタと触ってみた。けれど分かったのはやはり、自分が赤子同然の小さな身体になってしまったことだ。

 

 私は死んだはずでは?何がなんだか分からない。もしかして、通勤途中で見たネット小説の紹介にあった、転生とかいうのだったりして・・・・・。そんなこと現実におこるだろうか。しかし、そう考えるとつじつまがあう。


私は何とか状況を把握しようと、色々考えていた。そこに扉の開く音が聞こえ、ビクッと緊張してしまう。


「まぁ、お嬢様お目覚めだったんですね。アンナ、お嬢様のお顔を拭いて差し上げて」

「はい」


アンナと呼ばれた、まだ10代半ばくらいの少女はかわいい顔をしていたが、どう見ても日本人ではなかった。そして、初めに声をかけてくれた50代くらいの女性も、まったく日本人とは違う、そう、2人とも西洋人のような顔立ちだった。なによりも驚いたのが、着ている服だ。まるで映画で見たようないかにもメイドのような服を着ていた。


「ふぇっ」

「えっ?」


私がいきなり泣き出したことに驚き慌て出した2人。


「お嬢様、お人形さんですよ」

「お嬢様、あわあわですよ!」


2人はなんとか私を泣き止まそうと必死に話しかけた。いつの間にか泣き止んだ私は「お人形さん」と「あわあわ」と言われたものに釘付けだった。2人は機嫌がなおったと思ったようでほっとしていたが、私はそれどころではなかった。


なにこれ?なんでいきなり人形が浮いてるの?なんで何もないところから水の泡っていうかシャボン玉みたいなのが現れるの?

え?もしかして、これって魔法とか?


転生ってだけでも驚いてるのに、なんで魔法。もしかして、これがネットで見た、異世界転生とかいうやつなの!


目の前で起こっていること、私の身に起きたこと、もともとさみしいネクラアラサーにとってはすでにキャパオーバーだった。


神さま、普通でってお願いしましたよねー。なんですか、これ!


わたしはパニックになり、神さまに逆ギレし、キャパオーバーで、ふたたび意識を失ってしまった。


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