四話 愚かな訪問者
フランツとの日々は穏やかに過ぎていった。毎朝一緒に朝食をとり、夜には愛を囁き合う。平穏すぎて怖いくらいだと言うと、フランツは笑った。
「この幸せは誰にも壊させませんよ。だからもっと楽しんでください」
そう言われて安心していた。もう私を傷つける存在はいないのだと。
いつものように治癒師の仕事を終え、フランツとともにグリュック商会の仕事をしていると、玄関の方が騒がしくなった。
「来客の予定はなかったはずだけど……少し見てきますね」
フランツが様子を見に行ってしばらくすると、聞き慣れた大声が聞こえてきた。まさか……
「ローザを出せ!あいつは俺の娘だ。連れて帰る!」
「お姉様、出ていらっしゃい!あなたに償いの機会を差し上げますわ!」
お父様とアニーだ。私は使用人が止めるのを振り払って玄関へ急いだ。
「何しに来たのですか?もしかして、私の幸せな姿を見に来てくださったのですか?お気持ちは嬉しいですが、連絡もなしに来るなんて非常識ですわよ」
出来るだけ冷静な声で二人に告げる。
久々に見る二人は、すっかり変わり果てていた。お父様は顔を真っ赤にしてカンカンに怒っており、アニーはパンパンに腫れた顔を包帯でぐるぐる巻きにしていた。
二人が喚くのを遮って、まずはお父様に話しかける。
「お父様、家業が上手くいっていないようですね。これが私の意見を無視して、アニーの言う事を信じ続けた結果ですわ。今更私を連れ帰ったところで、どうなるというのですか?私は役立たずなのでしょう?」
「それは……」
お父様は俯いて言葉を探している。自分が無茶苦茶な事を言っていると気づいているのだろう。
アニーに向き直ると、アニーは私の方をキッと睨んできた。
「アニー、あなたは私が目障りで仕方がないのでしょう?私の印象を下げたり、物を盗んだり、しまいには追い出すように仕向けてたものね。上手くいって良かったわね。でも全然幸せそうじゃないみたいだけど」
私がそう言うと、アニーは叫びながらこちらに掴みかかろうとした。周りの使用人達に押さえつけられて動けなくなっても、叫ぶ事をやめなかった。
「うるさい!お姉様が悪いのよ。いつも私より上みたいな態度がムカつくのよ!だから追い出したの。でも許してあげる。さっさと私の顔を治癒して……」
「それ以上私の妻へ暴言を吐くなら、二度と口をきけないようにしてやる」
言い終わらないうちに、フランツが静かな声でアニーを制した。目が怒りに燃えている。あまりの迫力に、アニーは腰を抜かした。
「今、大人しく帰るなら今回のことは不問にしよう。お二人とも我々の幸せな姿が見たかったようだからな。だが、これ以上妻へ嫌がらせをするようなら、どんな手を使ってでもあなた方を亡き者にしますよ」
にっこりと笑ったフランツは、今まで見たことがないくらい恐ろしかった。
お父様はフランツの様子を見て、呆然としているアニーをつかんで慌てて去っていった。
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