第31話:夏を楽しめ、社畜!
「……な、なんですか」
「いや、別に?」
お昼ごはん中。わたしはずーーーーーーーーっと幸芽ちゃんのことを見つめていた。
何故か。そんな答えはかなりシンプルなものだった。
――幸芽ちゃん、その写真いつ撮った?
謎が謎を呼ぶ迷宮。真実はいつもひとつと言うけれど、実際調べなきゃ分からない。
だからこうやって見つめてるんだけど、幸芽ちゃんの反応がややおかしい。
「ご、ご飯に集中してください!」
「うん……」
お茶碗で隠しているように見えるけれど、頬のあたりが少し赤くなっている気がする。
熱っぽいとかそういうのじゃないだろうけど。
視線を追ってみても、涼介さんがいるということもなく。
いったい、何に頬を赤らめているのだろう?
「幸芽ちゃん、風邪とか?」
「え?!」
「そうなのか? それだったらご飯のあと休んだほうが」
「や、そういうんじゃ……。いや、そうしておきます」
「わたしも付き合おうか?」
「い、いいです! 風邪とか移したら嫌ですし!」
全力で拒否されてしまった。わたし涙目。
心配なのは心配だけど、気になることもあったりする。
「ごちそうさま、美味しかったよ!」
「はい……」
写真。そう、あの写真だ。
わたしの頬が緩みきった写真なんて、それこそタイミングを見計らわないと撮れない。
幸芽ちゃんのことだから隠し撮りはないと思うんだけど、うーむ。
足早に幸芽ちゃんが食器をシンクの中に収納し、自分の部屋へと立ち去っていく。
気になる。めちゃくちゃ気になる。
当然幸芽ちゃんに好きと言わせなければ死ぬ、という状況は分かっているけれど、個人的な興味本位からは逃れられないのだ。
「って言っても強引に攻め入ったんじゃ、幸芽ちゃんに嫌われるし……うむぅ」
「なに独り言つぶやいてるんだ?」
「エロ本の隠し場所をどうやって見つけるか、みたいな?」
例え方がひどすぎた。涼介さんめっちゃ動揺しているし。
「べべべべ、別に俺はエロ本隠してねぇし!」
「まぁそれはどうでもいいんだけど」
「ど、どうでもいいのかよ!!」
一人で抱え込んでいてもしょうがない。
ということで、先ほどの事情をぺらぺらと口に出す。
なるほどな。と腕を組んで考える涼介さん。ちょっと様になってる。
「俺も花奈の恋は応援したいしな」
「……本当に、変わったね」
あれだけ好きだと思っていたのに、人の心とはあっさり変わるものだ。
「いや、一昨日も言ったけど、今もお前のことは好きだからな?」
「でもほぼ諦めムードでしょ?」
「俺としては幸芽と一緒にいてくれればそれでいいし、それで二人が結婚したら、お前からも『兄さん』なんて呼ばれたりもできるだろ。そういうことだよ」
「ごめん、今の聞かなかったことにしていい?」
「すまん。俺も失言だったわ」
訂正しよう。なんだかんだ未練がましい男だということだ。
まぁ、今では親しい間柄だとも思ってるし、いいんだけどさ。
「気になってたんだけどさ。結局お前らって付き合ってるの?」
「……まぁ一応」
「向こうから好きとは言われてないけどね」と軽めに笑いながら、口に出す。
簡単に聞き出せてたら、あの自称カミサマの術中にはハマらない。
意外と難易度高いのは分かっていたけれど、幸芽ちゃんガード堅いんだもん。もうちょっと柔らかくしてほしいものだ。
「今日のところは引き上げてもいいかもな。あの様子じゃ、多分出てこない」
「やっぱりかー。幸芽ちゃんのけちんぼ」
「あはは。まーさ。夏祭りに誘えば、案外心を許してくれるかもだぞ」
「夏祭り?」
あー、そういえばゲームのパッケージにそんな感じにイベントスチルあったっけな。
そっか。もう夏休みだし、夏祭りとかもあるんだよね。
「毎年恒例のな。だいたい二週間後ぐらいか」
「夏祭り。幸芽ちゃんと夏祭り。浴衣の、幸芽ちゃん……!」
「お、テンション上がってきたか」
そりゃそうよ!
何色が似合うかなー。やっぱりクールな花柄の青かな。あのふんわりとした髪の毛がポニーテールみたいにまとまってくれれば、さらに嬉しい。
夏限定の幸芽ちゃん。んー、課金したくなっちゃう。
「海とかも行きたいねー。プールとかもいいなー」
「川でBBQもありだな」
「その場合幸芽ちゃんには過労死してもらう羽目に……」
「あー、確かに」
檸檬さん辺りも誘ったりなんかしたり。
あれ、もしかして夏休みって結構忙しかったりする?
「宿題もやんなきゃだしな」
「うぅ……」
「いい思い出にしたいよな」
軽く微笑みかけるように涼介さんがわたしの方を見る。
ったく。そういうところをもっと他の人に分け与えてあげればいいのに。
「そうだね!」
社畜時代に比べて暇だって思ったけど、あれは嘘だ。
昔よりも全然忙しいし、今の方がもっともっと楽しい。
これが学生時代の青春か。ちゃんと予定立てなきゃ。
海にプールに夏祭り。それに宿題と。悪くない、忙しさだ。
二人と比べたら老婆めいた思いを胸に秘めつつ、わたしたちはテレビを見ながら談笑に耽るのだった。
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