第9話:女子一晩会わざれば刮目せよ!
「ふあぁ……眠い」
「眠れなかったんですか?」
「うーん、夢を見たからかなぁ」
幸芽ちゃんと涼介さんの二人と一緒に、わたしたちは登校している。
そう、登校している! これは幼馴染って感じがして素敵すぎているんだ。
ゲームならではの出来すぎた設定と関係性に感謝しながら、わたしはどこまでも続く青い天井の下を歩いていた。
「夢ってそういうもんだよな」
「うんうん、そういうもの! せっかくだったら幸芽ちゃんとの夢が見たかったな」
「……なんでわたしなんですか」
え、だって好きだし。
と言ってしまうのは流石に気が引けるため、どうにか誤魔化すことができる言葉を探す。
「えーーーーっと。介護班だし?!」
「介護班って、どんな夢を見るつもりですか」
「例えばご飯をあーんってしてくれるとか?」
「しませんよ、自分で食べてください」
「えー。わたし、幸芽ちゃんに食べさせてほしい!」
よしよし。とりあえず誤魔化せたようで何よりだ。
電車を待つわたしと幸芽ちゃんを視界に入れるように、涼介さんは何故かこちらをボーッと見つめていた。
「どうしたの、涼介さん」
「……いや、なんでもないっていうか」
「っていうか?」
「お前らそんなに仲良かったか?」
「へ?!」
わたしとしては嬉しいんだけど、幸芽ちゃんがどう思うかどうか。
単純に迷惑だったりしないのだろうかが心配であった。
「ま、まぁ幼馴染ですし。このぐらい当たり前です」
「そうそう! 涼介さんだって仲いいでしょ?」
「まぁ、そういうことにしとくか。仲がいいのはいいことだからな」
笑う彼の姿に謎の違和感を感じながらも、やってきた電車に乗り込む。
ガタンゴトンと揺られながら、わたしたちは学校最寄りの駅まで到着。その足で登校を完了させた。
「それじゃあ、私はこれで」
「……お昼、一緒に食べよ!」
「はい、お弁当もありますからね」
「俺の分は?」
「当然あります。期待して待っていてくださいね」
ペコリとお辞儀して、幸芽ちゃんはそのまま自分の下駄箱へと去っていった。
残されたのはわたしと涼介さんだけ。どちらともなく自分たちの靴を下駄箱に収納する。
「なぁ。やっぱり幸芽のやつと仲良くないか?」
「そうかな。普通だと思うけど」
訂正。普通ではない。
わたしは幸芽ちゃんのこと好きだからね。まぁ言わないけれど。
そうだ。わたし、いつ幸芽ちゃんに告白しようか。
浮ついている気持ちはあるけど、やっぱりわたしの想いというものをいつかは伝えたいとは考えていたし。
いつにしよう。今日明日は流石に早すぎると思う。
それでもいつまでも待つということは、我慢弱いわたしにとってありえないと考えていた。
であるなら答えは善は急げの方がいいかもしれない。
「まぁ俺はいいけどな。最近お前たちを見てると妙な気持ちになるから」
「妙?」
「あぁ。花奈と幸芽を見てると、こう。得も知れない情動が湧き上がるっていうか。俺もよく分かってないんだよ」
変なことを言う幼馴染だ。
花奈さんを見ているだけなら分かるけれど、幸芽ちゃんとセット、ということになれば話は変わってくる。
まぁ、いいかそのことぐらいは。
別のクラスであるわたしたちは廊下で別れてから、昨日覚えた自分の席に座る。
「おはよ、花奈ちゃん!」
「ん、おはよう檸檬さん」
軽く背中の友人に挨拶してから、わたしはスマホを起動させてブラウザを立ち上げる。
「なんか調べごと?」
「そんなところかな」
内容は愛の告白について。
こういうときに検索エンジン先生は偉大なのだ。
灰色の青春を送っていたわたしには、特に。
ちらりと画面を覗いてくる彼女からスマホを逃す。
「むぅ、見せてよー」
「ふつう、人にスマホの画面見せる?!」
「あはは、そうともいうね。でーも!」
「あっ!」
スキを突いた檸檬さんにスマホを取り上げられてしまい、その画面を見せてしまう。
画面を見て、フリーズした。
「……マジ?」
「……マジだね」
あの花奈ちゃんがねぇ。などと言いながら、そっとスマホを返してくれた。
その興味は調べ事から別のことへと変わっていく。
「で、誰なん?」
「言うと思ってるの」
「やっぱ涼介くんかなー! あたしも狙ってたんだけどなー!」
「え、違うけど」
「え?」
「ん?」
ハテナ。なんで涼介くんになったのか。
やっぱり一緒にいるから? 心外だ。わたしは幸芽ちゃん一筋である。
「む。じゃあマジで誰だ? ……教えてよ」
「無理。絶対教えない」
「秘密にするからさー!」
このとおり! とお口をチャックする檸檬さん。
それでどうやって信じろっていうの。
「まぁいいや。相談には乗ってあげるから!」
「ちなみに恋愛のご経験は?」
「ないよ!」
「ないのかい!」
思わずツッコミせざるを得ない状況に陥る。
ないから相手が気になるとか、そういうことでいいの?!
「まー、相談したら案外解決するかもしれんしさ!」
「……そうかもだけど」
「名前は言わなくていいから、ね?」
確かに一人で抱えていても問題は変わらない。
だったら相談して決めるのも十分手なのかも。
餅は餅屋。きっといいアイデアを授かるかもしれない。ここは身を任せよう。
「実はね……。わたし、近々告白しようかなって」
真面目な顔で、わたしは相談を始めた。
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