もし「真実の愛」でみんなが幸せになる婚約破棄があったら
愛には色々な形があります。
「真実の愛」を向ける相手はそれこそ人それぞれ。
--------------------------------------------------
「テレシア・ミント公爵令嬢! トート王国王子である私ミハイルの名において貴方との婚約を破棄する!」
華やかなパーティ会場に力強い声が響いた。
シャンデリアの真下で仁王立ちする美男子は自分で名乗った通りこの王国の第二王子だ。
対するは華やかなパーティドレスを纏ったゴージャスな美少女。
テレシアはトート王国の公爵家の長女である。
「……ご理由をお聞かせ願えますか」
テレシアは扇で口元を隠しながら冷静に返した。
さすがは王子の婚約者。
突然の通告にも動じていない。
「真実の愛を見つけたからだ!」
言い放つミハイル王子。
見ればミハイルに庇われるように立つ小柄な人影。
シンプルなドレスを纏った桃髪の美少女。
「そちらが?」
「そうだ! マリアこそが私の真実の愛!」
堂々と叫ぶミハイル。
「真実の愛ですの? それが理由?」
「当たり前だ! 私はマリアを愛する!」
桃髪の美少女を抱き寄せる美丈夫。
マリアと呼ばれた少女も嬉しそうに抱きついた。
相思相愛のようだ。
テレシアは溜息をついた。
こうなることは予想がついていた。
マリアが学園に編入してきてからミハイルは変わった。
それまでは婚約者たるテレシアに溺愛と言ってもいいほど付き添っていたのに、マリアを知った途端にこれだ。
身分に関わらず誰とでも仲良く振る舞うマリアに魅了されたのかもしれない。
いや、違うかも。
「念のために伺いますが、マリア様のどのような所が愛しいと?」
一応聞いておく。
「それはもちろん、マリアがカシス連合帝国の皇女だからだ!」
やっぱり。
「しかもマリアは帝国皇帝陛下に溺愛されておられる! 皇帝陛下は嫁に出すのはまかりならんと仰せではあるが、私の真実の愛を持ってすれば必ずや!」
それは厳しいのではないかと思うがミハイルの事だから成算があるのかもしれない。
見かけによらずミハイルは狡猾で計算高いのだ。
「それはようございました。ですが問題が」
ミハイルは好きにすればいい。
殿下自身の問題だからテレシアには関係ない。
だがミハイルとテレシアの婚約は好き合った同士の約束ではない。
トート王家とミント公爵家の契約なのだ。
そこの所はどうするつもりなのか。
「問題はない!」
ミハイルは自信満々に言い切った。
「既に解決済みだ!
いきなり何?
セラム王国はトート王国の周辺国である。
国力はトートの半分ほど。
新興国だが農業と海運業が盛んで現在も伸びつつある有力国家と言っていい。
「セラム王国でございますか」
「そうだ! テレシア嬢を第一王子の婚約者に是非という話が来ている!」
なるほど。
第一王子なら次代の国王最有力候補だろう。
強力な後ろ盾があればその確率はさらに跳ね上がる。
例えば有力な隣国の公爵家から嫁を貰うとか。
「もちろん私が王位を継いだ暁には次期セラム
笑いを含ませて聞いてくる王子ミハイル。
テレシアは扇を広げて口元を隠した。
確かに。
「……そういうことでございますか」
「そういうことだ! テレシア嬢も『真実の愛』を得たいのではないかと思って、な」
「真実の愛」。
確かにこれならテレシアが真に愛するものを得ることが出来るかもしれない。
そう、テレシアは常々思っていた。
王妃になって自身の裁量で国を切り盛りしたい。
国王陛下以外の誰も上に頂くことなく自由に動く。
時には陛下の代理として辣腕を振るう。
だがテレシアの将来の伴侶は
国王にはなれない。
第一王子に万一の事があれば戴冠出来るかもしれないが、その時は国中が乱れて自由になど動けまい。
それでも婚約は王家との契約であり、テレシアとて貴族の令嬢であるからには仕方がないと諦めていたが。
ミハイルを見るとニヤッと笑いかけてきた。
カシス連合帝国はトート王国の宗主国とも言うべき強大な国家だ。
その皇女を娶ればミハイルの立場はとてつもなく強化される。
それこそ次代の王位が転がり込んでくるほどに。
「ミハイル殿下も『真実の愛』に生きると?」
「おうよ。私はすべてを賭ける!」
そう、ミハイルが真に愛するもの。
それは王位だ。
支配者の立場だ。
それを得るためなら何でもする。
各国の貴顕が集まるパーティの席で婚約破棄を叫ぶのもその一環か。
敢えて退路を断って自分や周囲を追い込んだと。
その覚悟、見せて頂きました。
テレシアは扇を畳んでから
「婚約破棄、承ります」
----------------------------------------------
王族や高位貴族の婚約破棄とか離婚って大抵はそういう理由でしょう。
恋愛はあっても打算が先に来ます。
王子が乗り換える令嬢が婚約者より高位の貴族、いや王族なら理由として十分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます