第3話 一悶着
【運命の選択】 幸運ポイント:10LUC
・A:走りながら簡単な説明をしとこう。[2]・10LUC
・B:中二的セリフで話を有耶無耶にする。[2]・20LUC
・C:リオを気絶するまでぶん殴って無理やり部室に連れて行く……[2]・80LUC
ざっと目を通すと選択Cの内容の酷さが際立っている。前の嘘告白して強制キスするのもそうだったが、選択Cは他の2つの選択よりも地雷臭がする。
まあ、今回は選択Bもまともな感じじゃないが。
他に気になった所は、前に選択したAの[]内の数字が1減って[2]になり、選択Cの[]内の数字が[1]から[2]に増えている事だ。
どういうルールで数字が増減するのかは情報が少なくて確信はないが、選択Bの数字が減った事から、[]内の数字は選択出来る回数を表しているのかもしれない。
あと幸運ポイントが0から10に増えているのに気付いた。
この幸運ポイント:10LUCは、前回選んだ選択Aの文章の最期に書かれていたLUCの数字と同じだ。
という事は、行動選択した選択のLUCの分だけ幸運ポイントが与えられるのか。
この幸運ポイントがどんなものでどう使いか分からないが、幸運と書かれているからには俺にとってデメリットになるものではないはずだ。
ただ、そうなると各選択肢の幸運ポイントが偏りがあるのに気付く。
【運命の選択】が発動したのはまだ2回だけだが、A→B→Cの選択の順に幸運ポイントの数字が高いのだ。その分、選びたくないと思える難易度の高い選択が出るのはそういう仕様だからだろう。
これらの事から無難な選択ばかりを選ぶと、選択可能数が0となって、ここぞという時に危険な選択を選ばなければいけなくなる。
安易な選択はしないよう気を付けないといけない。
そんなことを考えていたら、既にウインドウの外枠のほとんどが赤色に染まっていた。
考え事に没頭してる間に【運命の選択】のタイムリミットが迫っていた。
俺は慌てて頭の中で許容範囲と判断した選択Bを選ぼうとした。
だがあと少しという所で間に合わず、ウインドウの外枠全てが赤色に変色してしまう。
タイムリミットを過ぎてしまった。
何が起こるのかと身構えると、選択Cが光ってウインドウが消えていく。
時間制限を越しても選べなければペナルティがあるだろうと思っていたが、時間内に決められないと選択Cが自動選択されるみたいだ。
しかも1回目の時と違って、ウインドウ内の数字の変動が見当たらなかったことから本当に無駄な選択をしてしまったようだ。
やっちまった。
俺はこれから最悪の行動をしなければならない。
やばいよなあ。
あのリオに攻撃するとか自殺行為だぞ。
ついさっきリオは僕を襲うなら痛い目に合うよと冗談交じりに言っていたが、こいつが本気で攻撃するなら体格差なんて関係ない。
リオに勝てる人間を俺は知らない。
普段はそうじゃないが戦闘態勢に入ったリオは相手を容赦なく叩きのめす。
高校の頃から中性的で小柄かつ線の細い見た目をしていたリオは、よくガラの悪い連中に目を付けられた。
そしてその全員が酷いしっぺ返しを食らってリオに二度と近づかなくなったのだ。
俺がそんな後悔をしていると、周りの時間が進み出して俺の体もまた勝手に動き出した。
それまでのやり取りなんて全無視の突発的かつ突飛な行動。
虚を突いた俺の拳がリオの顔面目掛けて放たれる。
「避けっ……」
俺は警告しようと口を開けた。
瞬間、リオの体が視界から消えて拳が空を切った。
こいつを心配するだけ損だったな。
そんな諦めに近い思いが頭をよぎる。
拳を放って伸びきった右腕を誰かに掴まれた。
目線を下げると、身を低くして俺の懐に潜り込んで攻撃を避けたリオがいた。
さっきまで悪戯っぽかった目つきが鋭くなって俺を睨んでくる。
「……マロは僕に喧嘩売ってるのかな?」
「っ」
息をのんで一歩下がろうとする。
だが体は【運命の選択】通りに機械的に何度もリオに殴りかかってしまう。
それをリオは紙一重でかわし続けると溜息を一つ。
「ふぅ。こんな時になんなの?」
本当そうだ。
今も悲鳴が鳴り響いている化け物の殺戮現場から一緒に逃げ出したのに、その言い出しっぺの俺が急に襲い掛かってきたのだ。
俺はどうにかリオに言い訳をする。
首から下は【運命の選択】に支配されているが口は自由に動かせた。
「すまんっ。体が言うことを聞かないんだ! 俺だって本当はこんなことしたくないんだよ!」
「ふーん。そんなこと言いながら体は正直だね。拳に躊躇いがない。だったら僕も本気でやるよ」
そう言ったリオの手元がぶれる。
リオの素早く放たれたフックが、構わず攻撃し続けてた俺の横っ面に放たれた。
すると合成音じみた声が頭の中で流れた。
〈不運を感知。幸運度:10LUKを緊急消費してLUC分の幸運を発動します〉
そんな言葉が一瞬で脳内で流れたと思ったら、なぜか急な欠伸に駆られた。
キレたリオに殴られそうだというのに、お構いなしに欠伸が出てしまう。
「ふぁー」
自然と出た欠伸のせいで首が上向き顎がわずかに上がる。
そうすることでリオのフックがヒットするはずだった位置から、俺の顎が若干ズレた。
「えっ!?」
リオが驚きの声をあげる。
まさか避けられると思わなかったのだろう。
俺も内心で驚いていた。
正確に俺の顎を撃ち抜くはずだったリオの拳は、俺に掠る程度しか当たらなかった。
だがその衝撃で脳を軽く揺らされた俺の意識は薄れていった。
体から力が抜けて崩れ落ちるようにアスファルトの地面に倒れ込んでしまう。
本当にこんな時に何やってるんだろうと、かすみがかった意識でそう思うのだった。
どれくらい寝てたのだろうか。
俺の意識がはっきりした時には現代文化研究会の部室にいた。あまり掃除されておらずゲームや漫画、アニメグッズやコスプレ衣装の布などが置かれた部室だ。
上半身を起き上がらせると硬く冷たいコンクリートの床に寝転がされていたので、着ていた虎柄の革ジャンが砂利と埃で汚れていた。
「俺はどうやってここに?」
リオに脳を揺らされたせいか軽い眩暈がする。
確か直前の【運命の選択】のせいでキレたリオに殴り返されたはずだ。
誰かいないかと周りを見回すと横から声を掛けられた。
「や、やあ、おはようマロ。目が覚めたみたいだね」
振り向くと顔を俯かせて何かに耐えてる様子のリオがいた。
部室の中央にはサークル会員人数分のパイプ椅子と長机が置かれていて、そこにリオと佐久間部長が座っていた。
ただ佐久間会長は自分の左手の甲をじっと見て難しそうな表情をしていた。
「リオが俺をここまで運んでくれたのか?」
「う、うん。マロが軽い脳震盪で倒れちゃったからね。頭痛や吐き気がしたり前後の記憶があやふやだったりする?」
「眩暈はあったけど、もう何ともないぞ」
眩暈はすぐに治ったし前後の記憶や体の調子に違和感はない。
脳震盪の影響はないはずだ。
「上の空だったけど意識もあったし大丈夫そうだね。だけどごめんね。マロが本気で殴りかかってきたから僕も本気で攻撃しちゃった」
「いや、こっちこそすまなかった。俺が急に殴りだしたのが悪いからな」
俺とリオは互いに謝った。
お互い謝ったなら禍根は水に流してチャラだ。
こいつとの付き合いは長い。くだらない事で喧嘩するなんて珍しくもない。
大抵、俺が負けを認めるのだが最終的には2人とも大人げなかったと笑い話にしてしまう。
気絶したせいか【運命の選択】の支配から脱したようだ。
近くにリオがいるのに殴ろうとしないのがその証拠だった。
どうやら【運命の選択】の行動は俺自身の意識の消失が起こればキャンセルされるようだ。
また一つ俺はこのよく分からない力の事を知れた。
「って、それどころじゃなかった。あの化け物どもはどうなったんだ!?」
俺の質問に対してリオの表情が辛そうに歪む。
「外はゾンビ映画さながらゾンビだらけになってるよ。犬の化け物はあれから見てないけど、この部室の中にいれば1時間は安全のはずだよ」
「安全……なのか?」
「そうだよ。佐久間会長のおかげでね」
佐久間会長のおかげだって?
当の会長はさっきと変わらない顔で左手の甲を見つめている。
「それじゃあ……ぶふっ、くくくっ。やっぱダメだ。もう我慢できないや。あーはっはっ」
リオが俺を見て腹を抱えて笑い出した。
よほど面白いのか我慢できないといった感じで笑い続けた。
「な、なんだよ突然」
「あははっ、ごめんごめん。僕がこんなに笑った理由を教えるよ。まずはそこの姿見で自分の頭を見てみなよ」
リオが部室に置かれていたコスプレ衣装用の姿見の前に立つよう促してきた。
俺は戸惑いながら立ち上がり、近くに置かれた姿見のそばに近寄った。
一体、何が映っているというのか。
頭を前にかしげて姿見を見る。
「……おい、何だよこれ」
姿見に映った自分の頭部を見て呆然としてしまう。
禿上がった頭頂部。
そこには大きな車輪を中心に何体かの幻想生物の絵が描かれていた。
当然ながらこんなのを自分で描いた記憶は無い。
というか指でこすっても取れる様子がない。これはもしかしたら刺青ってやつじゃないだろうか。
「言っとくけど僕がやったわけじゃないからね」
「それじゃあ誰がこんな悪戯をしたって言うんだよ」
まさか佐久間会長がやったのかと思って、ずっと黙って考え事をしてる様子の彼女の方に顔を向ける。
これだけ騒げばさすがに気づいたようで佐久間会長も俺の方に顔を上げていた。
「私でもないぞ。それに見知らぬに刺青が入ってるのは鬼島だけじゃない。私もだ」
左手の甲をこちらに向けて話す佐久間会長。
そこには昼頃には無かったはずの刺青があった。
銃を構えた骸骨兵。その周囲には見たことない文字やら記号が記されてる。
「会長。いつの間にそんな刺青をしたんです?」
「私だって刺青をした覚えはないさ。外が騒がしくなったと思ったら手の甲に出来てたんだ」
「あっ、僕も刺青があるんだよ。見て見て」
リオが首に巻いてるチョーカーを外すと、首元を見せびらかしてくる。
細めの首筋を見てみれば、何匹も絡みついた蛇の入れ墨が首を一周するように描かれていた。
「それでさ。この刺青に触れると凄いんだよ。マロも自分の刺青に触ってみなよ」
ここまでくれば言われた通りやってみるしかないだろう。
俺は右手で刺青のある頭に触れてみた。
狂った世界の運命の選択者 @6-sixman
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