浪人

バブみ道日丿宮組

お題:秋の踊り 制限時間:15分

浪人

 魚が連れた。

 久々の大物。

 竿を投げれば投げるほど、踊り食いしてく。

 こんなことははじめてだ。

 受験に失敗して、生活の補助のためにはじめたことだけど、食費の負担が軽くなると思うと嬉しくなる。

「兄ちゃん、なかなかいい引きだな」

「そうですか? いつもは引いてもくれないので参考書ばっか読んでましたよ」

 日焼けが男らしいおじさんがクーラーボックスを覗き、参考書に目を落とす。

「受験生かい?」

「浪人生ですね」

「そっか、こんだけつきがまわってるんでい。来年は受かるだろうよ!」

 おじさんは僕の背中を叩くと、堤防の先端へ歩いてった。

 まだ僕が行ったことのないスポットだ。

 何しろ釣り初心者が大物をいきなり狙うのは対処に困るし、何かあった時に大変。あくまでも受験勉強に差し支えないように行う。

 それが僕の受験勉強だ。

「へー、今日は連れたんだね」

「なんだよ、くるなら連絡すれば良かったのに」

 ふふとしゃがみ込むクーラーボックスの中をつつくのは幼馴染。

「そうやってると下着丸見えだけど?」

「別に今更でしょ? まさか興奮しちゃった? ほんと見境ない変態なのね」

 なぜその発想に至るのか。

「はぁ……制服フェチなのは認めるけど、大学にまで高校の制服で行くのはどうかと思うよ」

 幼馴染は制服姿、しかもつい最近まで通ってた学校のものだ。

「ん、だって一緒に入学できなかったからさ、くるまで私はこのまま待ってるよ」

「ははは……プレッシャーだな」

 つまり同じ大学に入らない限り、彼女は謎の制服学生となる。最低あと半年はそういう異端の目で見られることになる。

「今日も教えてあげるから、帰りましょ。魚もう十分じゃない?」

「う、うん。そうだね」

 スカートがふわりとしたので、思わず顔がほてった。

「むっつり」

「ち、違うし、似合ってたからだよ!」

「ありがとう」

 嬉しそうに笑うと彼女は1人先にあるき始める。

 僕は出してたものをリュックにしまい、そのあとをおう。

「今日のご褒美は新しいのを考えたの」

「また大学でへんなの仕入れたの?」

「うん、面白い先輩がいてね。来年入学したら紹介してあげる。きっと気にいると思うよ」

 そりゃ、僕の身体が彼女で満たされることになってるのだから、凄腕の変態なんだろう。

「まぁ正直いって、あなたは参考書みなくてももう合格できると思うよ。私が大学の課題の手伝いさせてもついてこれてるんだもの」

「そうかな」

 自信はない。

「大丈夫、自信は私があなたに刻み込んであげるから」

 痛いのは嫌だなぁと、彼女の手を取り家へと向かった。

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浪人 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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