わからないもの

バブみ道日丿宮組

お題:鈍い嘘 制限時間:15分

わからないもの

 嘘だと気づくには遅かった。

 たどり着いた場所には彼女の亡き姿。

 血まみれで原型を保ってはいなかった。

 唯一わかるのは、僕が誕生日として別れ際に渡した指輪。

「……」

 あなたとはいけないけれど、ありがとう。

 その意味を僕は真剣に考えるべきだった。

 彼女がご令嬢で、父親は政界で嫌われ者。そんな状態でシークレットサービスを1人もつけないのだからこの自体は僕が引き起こしたと同じだ。

 ずっと一緒にいようと、彼女の父親にすら認めてもらったのにこれではまるでただのクズだ。

 冷たくなった遺体を抱きしめると、僕はあるき出した。

 彼女がいるべき場所はこんな景色が殺風景な公園の空き地なんかじゃなく、彼女がいきいきしてた彼女の部屋だ。

 歩くたびにいろんな視線が飛び交った。

 気にしなかった。むしろ僕が失敗したからこの経過を招いたのだと罵倒する視線を送ってほしい。愛するものを1人守れなかった若輩のゴミクズだと。

 途中パトカーに同行を求められたが、さすがに僕も目が政界にあるからか名前を出すと慌てて逃げてった。

 関与すれば自分たちがどうなるかわかってるのだろう。

 それぐらい彼女の父のやり方は恐ろしい。悪魔の手下とも、悪魔本人だとも言われてる。

 そんな彼でも娘と僕の前では優しい父親であってくれた。単に彼の腕がいいからこそ政界で暴れることができるんだと僕たちは知ってた。

 

 そしてそんな父親の娘がやることは、きっと飛んでもないことだろうと彼女の部屋にたどり着き鍵を開けた時に気づいた。


「遅かったね?」

 そこには僕が抱いてる彼女の死体と瓜二つの彼女がいた。

「ここまで連れてくるとは思わなかったよ。あれれ? わたしが死んじゃったとか本気で思ってた? そんなニブチンだったっけ?」

 僕は亡骸だったらしくものを玄関に置く。

「君を死んだことにしたいって意味を感じ取ってね」

「あはは、よくわかったね。わたしって生きてるとみんなが不幸になるみたいだからさ、一回殺して反乱分子をあぶり出そうと思ってねー」

 近づいてきた彼女は血まみれの僕を濡れタオルで拭いてくれた。

「うーん、これはタオルじゃダメだね。お風呂入ろ?」


 彼女の言葉のまま、一緒にお風呂に入り恋人の絆を結んだ後、玄関に置いてあった遺体らしきものがなくなってた。

「あぁ、あの偽物ね。あれでお葬式やるみたいだから引き取ってもらったよ。もちろん、顔の聞いたとこだよ」

「……なるほどな、手がホントこんでる」

 さすがあの人の娘だな。

 僕はこの2人の役に立てる人材になれるだろうか、すこし不安になる。

「あ、自分がなにかしようとか思ってる? 大丈夫だよ。あなたはわたしのそばにいて愛をくれればいい。それ以外はわたしがなんとでもできる」

「はは、かなわないな」

 そうでしょという彼女はまだ裸体のまま台所へといき、鼻歌混じりに料理を始めた。

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わからないもの バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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