20歳

北 リリア

20歳

2001年5月10日に僕は生まれました。


僕の家庭は裕福ではなく、普通の家庭でもなく、最悪の家庭でした。

父はいつも酒を飲み、母に暴力を振っていました。

酷いときには僕にも暴力を振います。

しかし、そんな父から守るように母が僕を庇ってくれました。

母に大事にされていると分かりとても嬉しかったです。

暴力を振うことに飽きた父は出かけました。

これで安心して母と過ごせると思いました。


母は僕に暴力を振いました。

ですが、母が僕に手を上げたのはこの一回きりでした。

母はすぐに謝りました。

そしてこの悪夢から逃げるべく、父と離婚しました。


それから母と二人で暮らしました。

母は朝も昼も夜も頑張ってくれました。

また、休日には遊園地や水族館などにも連れて行ってくれました。

僕は、僕の為に働いて遊園地などにも連れて行ってくれる母のことが好きでした。

そんな日々はとても幸せでした。


幸せはすぐに終わりました。

高校入学式当日の朝、母は旅立ちました。

死因は働きすぎによる過労でした。

僕は泣きました。

なぜ、今日なのか。母に制服を見てもらって、似合ってると言ってほしかった。

母の家族に連絡し、僕は入学式に行きました。

外に出ると、そこにはまるで不幸なものがこの世に存在しないかのように雲一つない快晴が続いていました。

反対に僕の心は嵐や雨が降り続いていました。

僕は晴れの日と太陽が嫌いなものになりました。


母の葬式の後、親族は僕をどうするか話していました。

僕が通っている高校から近いということで母の叔父の家にいくことになりました。

そこに僕の居場所はありませんでした。

僕はバイトをし、一人暮らしの準備を進めました。

そしてすぐに叔父の家を離れ一人暮らしをしました。


高校生活は僕の家の事情を知っている教師や仲良くしてくれた友達もいて充実していました。

そして高校を卒業し、大学生となりました。


そこで初めて彼女ができました。

皆で仲良くなるために焼肉に行き、連絡先を交換した日に何気ない会話をしていつの間にか遊ぶ約束などをしていたら告白されました。

告白される経験がなかったのでとても嬉しかったです。


彼女と付き合ってから事あるごとに喧嘩しました。

といっても、彼女が僕の言動に気に食わないことがあると不機嫌になるので喧嘩とは言えないかもしれません。

そんな彼女の機嫌を宥めていると、何で僕が機嫌取りにならなければいけないのかと思うようになりました。

しばらくして彼女と別れました。

別れたあと僕は彼女のことを口では好きだ愛してるだなんて言いましたが、心は好きではなかったようです。

彼女に酷いことをしました。

僕は僕が嫌いになりました。


それから段々と無気力になってしまいました。

大学に行って、次の日は休んでを繰り返していましたが、ついには大学にも行かなくなりました。

それから僕はベッドの上で生活しました。

ご飯やトイレ、お風呂のときはベッドから出ましたが、それ以外の時間はほとんどベットにいます。

そして、過去の出来事に目を向ける時間が増えました。


父が母に暴力を振ったこと、その母も一度だけ僕に手を上げたこと、離婚したこと、

母が死んだこと、彼女と付き合い、別れたこと、そしてそんなに好きではなかったこと。

その中でも一番悲しいのは、やはり母が死んだことです。

高校の制服姿を見てもらいたかった。

これからは僕がバイトするからお母さんは休んでいいよと言いたかった。

そして今度はお母さんを旅行へ連れていきたかった。

それが、僕の夢でもありました。


ですが、それは母が居てからこそできるもの。

叶わない夢など、どうでもいい。


そして何もかもどうでもいいと思えました。

読みかけの漫画、小説、途中までやったゲーム、最新作のゲーム。

楽しみではありますが、それらすべてがどうでもいいと思いました。


ご飯を食べるのも、トイレに行くのも、お風呂に入るのも全て。


天国があったら、お母さんと幸せに暮らせるのかな。

それとも、怒られてしまうのかな。

だけど、お母さんに会えるならそれだけでいい。

ああ、楽しみだなぁ。



2021年6月11日 金森晶 死亡。

享年: 20歳

死因: 自殺

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20歳 北 リリア @joji_021

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