第6節 小瓶いっぱいの笑顔

[サクラパビリオン_ステージ]


 ステージの上、肩で息をする2人。


真尋   「………………」

ロキ   「………………」



[サクラパビリオン_調整室]


章    「くそ……。最高だよ、あいつら……」

律    「……はい」

章    「……。……あれ……。何か客席、しんとして……」

律    「……静かです。会場ごと、まだ2人に飲まれてる」


 やや間があって、万雷の拍手で包まれる。



[サクラパビリオン_客席]

 

観客1  「……すごかったな……!」

観客2  「……心を持ってかれたみたい。拍手のタイミング、逃しちゃった」

観客1  「オレも。涙、止まんねぇ……!」


南條紋太郎「……衣月」

東堂文子 「……章……」


雄一   「……っ……やべーもん、見せやがって……!」

雄二・雄三「「……兄ちゃん……!!」」


蛇川   「“リツ”の音楽……あの時より、ずっと……!」

猪狩   「……驚いた。ここまで成長してるとはねぇ」


凛    (悪くなかったわね。……けど、私は正直──)


 会場中が心からの笑顔で満たされ、光に変わっていく。



[サクラパビリオン_ステージ]


真尋   「……ロキ。俺……」

ロキ   「──分かってる。……気持ちいい。死ぬほどな」

真尋   「神なのに?」

ロキ   「神なのに」


 2人、微笑み合う。

 客席から光に変わった心からの笑顔がロキの小瓶に集まっていく。


ロキ   「……!」

真尋   「!」

ロキ   「客が、すげー嬉しそうだ。“笑顔こびん”……いっぱいになった」


章節


ロキ   「……はは。喜べ、真尋。最優秀賞、間違いなしだ。これで、お前の“願い”も叶ったな」

真尋   「……ロキ……」

ロキ   「……あ……」


 小瓶から光があふれ、ロキの体を包む。


ロキ   「は……。ちょっとの猶予もねえのかよ」

真尋   「ロキ……っ!」

ロキ   「お別れみたいだ。真尋。……ありがとな。今まで……」


真尋   「ロキっ、待って……っ! 俺の手を……!」


 真尋、ロキに手をのばすが、すり抜けてつかめない。


真尋   「!? ……っ……手に、触れない……!?」

ロキ   「……はは。透けてやがる。最後に、握手くらいしとけばよかったな」

真尋   「ロキ……!」



[サクラパビリオン_舞台袖]


総介   「あの光は……! 小瓶に“笑顔”が集まりきったのか! けど……声は聞こえてなくても、客は一部始終を観てる。これじゃ、多分……」

衣月   「うん。幕はまだ下りてない。観ている人には、芝居の続きに見えてるはずだ……!」



[サクラパビリオン_客席]


観客1   「なんだ、あの光……あれも演出かな?」

観客2   「きっとそうよ。まだ、続きがあるんだわ」

凛     「……」


 

[サクラパビリオン_ステージ]


 ステージに大きな風が吹く。


ロキ   「……そんな顔するな。最後くらい、“笑顔”で見送れよ」

真尋   「違う……。……違う!」

ロキ   「え……?」

真尋   「最後じゃない。……これで終わりになんか、させない!」


真尋   「それが決まった筋書きだとしても、俺はきみを離したりできない!」

ロキ   「真尋……」


真尋   (ロキがいなければ、俺は今もまだ過去に囚われていた。ロキがいたから、俺はこうして舞台に立てたんだ。芝居は俺のすべてだ。芝居を取り上げたら、俺には何も残らない。生きていけない)


真尋   (ロキ。きみが俺に芝居を取り戻させてくれたんだ。俺にとって芝居は、もう、きみとの2人芝居で……)


真尋   (だから──!)


 真尋の声が会場中に響く。


真尋   「きみは、俺の命なんだよ。いつまでも、ずっときみと“ここ”にいたい」


14章6節


真尋   「それが、俺の……“真実ほんとうの願い”だ……!!」


 真尋、もう一度芝居を始め、ロキもそれに応える。



[劇中劇 「王子と人魚」]


王子(真尋)「……ダメだ!」

人魚(ロキ)「え……?」

王子(真尋)「消えさせない。絶対に。たとえそれが、どうしようもない運命だとしても……『君といたい』っていう僕の想いは、運命よりも強いから!」


人魚(ロキ)「……っ……無理よ。もう、ほとんど消えかけてるのに……」

王子(真尋)「でも君は僕を見てる。僕といたいって思ってくれてる。気持ちは同じだよ。なら、諦めちゃダメだ!!」

人魚(ロキ)「……!」


王子(真尋)「生まれも違う。考え方も、生きてる時間も全部違う。でも僕は君を好きになった。だからこれは、別れるための出会いじゃない。そうだろ?」


人魚(ロキ)「……うん。…………うん! 私、あなたと出会えてよかった……生まれも、生きてる場所も、なにもかも違う。だけど、今ここでこうしていられて、信じられないほど、幸せだから……!」



王子(真尋)「僕に手を伸ばして。消えないで。僕を見て!」

人魚(ロキ)「消えたくない。……っ、本当は1日なんかじゃ足りない。これから先の時間を、ずっとあなたと……一緒にいたい……!! 」


<幕>

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