第35話 センパイからの一発OK

 次の日、かすみセンパイは、昔話の続きをねだる子どものように尋ねた。


「で、それから?」


 僕も、子どもに語って聞かせるように話を続けた。


「観は廃屋に通って、悠里に現代のことを語るようになります。でも、悪友の小菅と、幼馴染のあきらに気付かれてしまうんですね」


 僕は、ほかの登場人物を演じながら、「なか」の中盤までを説明した。


《やるじゃねえか、行け、羽佐間! ガンガン押して、最後は一気に……って何言わせんだこのスケベ、いいからいいから、誰も見てねえんだから俺だって見てないから報告だけきちんとしろ絶対だぞハアハア……》


 これが、小菅だ。

 訳も分からず観をけしかける。

 友達のことを深く思いやりはするが、勢い余って羽目を外してしまう、優しくて落ち着きのない男だ。

 観を問い詰めるあきらは純粋に観を慕ってはいるが、幼馴染の甘えからか、無条件に独占できると思っている幼さがある。

 だから、口調はこうなる。


《ちょっと何よ、あの子誰、あたしに無断で何やってんの信じらんない! あっそう、言わないの、じゃあちょっと観っとこの小母さんに相談しよっかな~、え~何? よく聞こえないな~!》


 かすみセンパイは楽しそうに聞いていたが、やがて、もったいをつけて尋ねた。


「じゃあ、どこから始めるかわかるね?」


 もちろん、答えられると踏んでのことだ。

 僕は敢えて、面倒臭そうに返事をする。


「あきらが観を問い詰めるシーン」


 センパイは、満足そうに頷いた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る