第22話 人は幾つもの顔を持つ

「あんた、親の前でそういう口答えできる?」


 僕はオフクロの顔を思い出した。あのヒステリー。思い出すだけでムカっとくる。

 口を開けば、進学のことしか言わない。というか、何言ってるのか分からない。


 オマエの息子だ!

 オマエが選んだオヤジの息子だ!

 つまらない見栄で、僕にプレッシャーかけないでほしいな!


 なんて口答えは……やったことない。だけど、キレたらできるかもしれない。


「できるさ」

 

 努めて平然と答えてみせたけど、わざとらしかったかもしれない。

 かすみ先輩は驚いたような顔で、へえ、と相槌を打ちはしたが、すかさず突っ込んできた。


「じゃあ、アンタんとこの担任には?」


 確かに、あの担任は結構うるさい。態度や言葉遣いに細かい。ちょっと言い間違えたり、ちょっと気が緩んだりしただけなのに物凄く怒鳴られる。

 いっぺんキレてみるのもいいかもしれない。……勇気いるけど、たぶん。


「できる……かも」


 ちょっと勢いはなかったかもしれないけど、そう答えてはみせる。

 そこに、かすみセンパイはもっともらしく頷きながら踏み込んできた。


「じゃあ、たとえば退学寸前になっても校長にそういう態度取れる?」


 たとえの踏み込み方がが極端すぎる。できるわけない。


「それは……」


 僕が口ごもると、かすみセンパイは真面目な顔をしてみせながら、トドメを刺してきた。


「二重人格者ってことになるよ、アンタ」

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