219 【GW企画】ロッジ『小説の技巧』みたいなやつ③「一人称の豊穣:詭弁を弄する登場人物」

◆「一人称の豊穣:詭弁を弄する登場人物」


山田風太郎『明治波濤歌』「からゆき草紙」から(引用:河出文庫『明治波濤歌 下』1994)


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 前科者たちを晴れて錦を飾って故郷に帰らせるっちゅうのは、拙者のホラではない。かりに一人三百円で女を仕入れたら、口銭として百円やった。十人誘拐したら千円じゃ。これでひと財産つくって帰国し、いまじゃ村会議員などやっちょる人はたくさんある。

 拙者は、ほかに密航の費用として百円出す。合計一人千五百円かかるが、さっきも言ったように女は月に二百円以上もかせぐんじゃから、拙者のもうけを百円としても、五カ月ではとれる。また、かりによそへ売っても二千円から三千円には売れる。

 こうして、お国にをする人間のくず、前科者を真人間に返らす上に、女もせっせと故郷に送金する。親兄弟は裕福になる。それを村長が聞いて、所得税をかけて来る。どれだけお国のためになるかわからん。

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以前、拙作「三毛のタマ。」

https://kakuyomu.jp/works/16816927861837585126

のコメントで、技法についての質問をいただくという、後にも先にもなさそうなことがありました。緊張しました。

その時の回答のやつに相当する長編、これとかです……いろんな効果があるんです、突如一人称の挿入。


縁ある娘を人買いの手から救おうと黒岩涙香と樋口一葉が奮闘する本作。一葉が人買い・村岡茂平次のところへ乗り込むところ。ここまで三人称です。


そこから続く、村岡その人からこれまでの女郎屋人生を得々と自慢げに語られる強烈な場面がまるまる村岡の一人称となります。上記はその部分です。


まあこの詭弁に満ちていること(笑)あきれてしまうのですが、村岡の見聞きしてきた追い詰められた人間の悲惨さと浅ましさ、そんな人間が這い上がろうにも戻れない世の中のからくりのリアル、「人買いも一理あるのかなあ……」まあ詭弁なので(笑)


この一人称の部分。一葉視点である読者視点からは異様な話を聞かされる臨場感となりますし、さっくり作品中の重大な伏線も隠れており、なかなかの曲者です。山田風太郎大先生だからなあ。←解説を放棄


ということで、人称の効果についての例でした。


ゴールデンウィーク企画、以上となります。

ありがとうございました!

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