第七話 ルルちゃん、かしこくなる

 12月になりました。クリスマスがやってきます!


 ルルちゃんは少し前に、クリスマスのことを教わりました。サンタさんがやってくるのです。寝ている間に、プレゼントを枕元に置いてくれるのです!


 ルルちゃんはクリスマスをとても楽しみにしていました。


 よい子にしていれば魔物のところにも、サンタさんはやってくるそうです。そこでルルちゃんはなるべくよい子にしていました。自信はありませんが、じゅうぶんよい子こ何日か過ごしていたと思います。たぶん、サンタさんはルルちゃんのところにも来てくれるでしょう。


 ある日、お母さんがルルちゃんに言いました。


「サンタさんにお手紙書きましょうよ」


 プレゼントになにが欲しいか、手紙でサンタさんに知らせるとよいと言うのです。けれどもルルちゃんは字が書けません。そこでお母さんに代筆してもらうことにしました。


 食堂のテーブルの上に、お母さんがびんせんとペンを置いて、いすに座ります。ルルちゃんも自分のいすを持ってきてとなりに座りました。


 プレゼントはもう決まっています。あれこれと考えたのです。おいしいおやつがいいかな、などと思いました。けれども別のものにすることにしました。


「ウララちゃんの服にしようと思うの」


 ルルちゃんはお母さんに言いました。ナミに、ネットで見せてもらったことがあるのです。ウララちゃんの服がたくさん売られていました(要するにあの、魔法のかぎです)。その中に、白いドレスがありました。


 ドレスははシンプルな形で、すそには銀の飾りがあって青や白の石がちりばめられていました。おそろいのティアラもついています。きゃしゃなティアラでこちらも白い石がふんだんに使われていました。


 これを着たウララちゃんはきっと、雪の妖精のように見えることでしょう。


 ウララちゃんはよろこんでくれるでしょうか。じつはすでに、ウララちゃんにそのドレスの画像を見せています。ウララちゃんはため息をつくように、「とてもすてき」と言いました。どうやら気に入ったようです。


 プレゼントしてもウララちゃんの好みに合わないのでは意味がありません。ルルちゃんはこっそりその辺をたしかめたのでした。ただ、プレゼントするとは言っていません。そこはおどろかせたいのです。よろこんでくれるといいのですが。


 ルルちゃんはどんな服かをお母さんに説明し、お母さんはそれをていねいに書きとめました。


 書き終わったあとで、ふいに、お母さんが言いました。


「ウララちゃんのお父さんにも手紙を書きましょうか」

「ウララちゃんのお父さんにお手紙が出せるの?」


 ウララちゃんの本の表紙には(どういうわけか)お父さんの名前が書いてあります。「フジタヨシマサ」さんというのです。お父さんは宇宙飛行士で、あまり家にいないのだそうです。


「出せるわよ」

「住所、知ってるの?」

「住所を知ってるわけではないけど……でも出せるのよ。ほら、サンタさんがどこに住んでるかくわしくは知らないけど、でもお手紙は届くでしょ」


 お母さんは言いました。いまいちよくわかりませんでしたが、そういうものかと思ってルルちゃんは元気よく言いました。


「お手紙、書く!」


 お母さんは新しいびんせんを用意しました。ルルちゃんは考えました。なにを書けばいいでしょう。


 お母さんは言いました。


「ルルちゃんがウララちゃんと仲が良くて、いつも一緒に遊んでることを伝えればいいのよ」


 ルルちゃんは悩みます。相手はウララちゃんお父さんなので、緊張してしまいます。ルルちゃんは姿勢をただし、考えつつ口を開きました。


「それは雨の日のことでした」まずは、出会いの場面から語ろうと思ったのです。「その日わたしはたいくつしており……」


「わたし、なの?」手を止めて、お母さんがたずねました。「ルル、じゃなく?」


「わたしだよ。そっちのほうがかっこいいでしょ」


 ルルちゃんはそう言って、話を続けます。


 予想以上に長い手紙になりました! ルルちゃんはウララちゃんがどんなにすてきな子か、くわしく伝えようとしました。けれどもそれは難しいことでした。上手く言葉で表現することができないのです。


 すべてを語り終えたあと、ルルちゃんはお母さんに言いました。


「ルルの似顔絵も描いてほしいの」


 ルルちゃんがどんな見た目の子か、すでにウララちゃんがお父さんに話しているかもしれません。でもそうでないかもしれません。この手紙を読んだフジタさんはいったい、うちの娘と仲良くしている魔物はどんな姿なんだろうと気になるかもしれません。そんなとき、似顔絵があるとよいでしょう。


 お母さんは似顔絵を描いてくれました。とてもハンサムに描いてくれました! それを見てルルちゃんはたいへん満足しました。


「ウララちゃんのお父さんってどんな人なんだろう」


 ルルちゃんはふと気になり、口に出して言いました。ウララちゃんが美人なことを考えると、お父さんもハンサムなのでしょうか。


「ネットで見ることができるわよ」


 お母さんが言います。ルルちゃんはおどろいて言いました。


「そうなの!? 見たい!」


 お母さんが携帯を操作して、ルルちゃんに見せてくれます。フジタさんは、ウララちゃんのお父さんは――よく太った人でした。


 まるまるとした顔をしています。赤ら顔です。髪の毛は少しうすいようです。あまりウララちゃんに似ていません。


 フジタさんは、笑っていました。とても幸せそうな笑顔です。まん丸い顔にふさわしい、まるまるとした笑顔です。あまりハンサムな人とは言えませんが、けれども明るく陽気で、いい人そうです。


 ウララちゃんのお父さんがいい人みたいでよかった、とルルちゃんは思いました。




――――




 月日が過ぎていきます。クリスマスまでの楽しい時間です。イブにはごちそうを食べましょうとお母さんが言いました。ケーキも買ってくれるのだそうです。


 ルルちゃんは幸せな毎日を過ごしていました。けれども――災難はある日とつぜん、訪れるものなのです。

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