4

 歌は終わり、今度はまた別の人が別の歌を歌い始めました。ルルちゃんはさっきの星の歌が気になっていました。男の子が、ノートを閉じ、机の上を整理して、立ち上がります。


 そしてなにかのスイッチを消しました。音楽が、とたんに聞こえなくなりました。


「宿題終わったし、そろそろ寝よっか」

「うん。……あのね。さっきの歌なんだけど……」


 ルルちゃんはおずおずと切り出します。


「さっきの?」

「うん。お星さまが出てきた歌」

「ああ、あれね」

「あれを歌ってた人……なんていう名前なの?」


 ルルちゃんはどきどきします。男の子は首をかしげました。


「えっと……誰だったかな……。知ってるはずなんだけど、名前が出てこない……。調べよっか?」

「ううん、あ、明日! 明日調べてくれたら」

「わかった。じゃあ、今日はもう寝ようね」


 男の子はルルちゃんに、ふとんに入るようにうながしました。そして明りを消して、男の子もふとんの中に入ります(すでにパジャマ姿でした)。


「おやすみ」


 男の子は言います。ルルちゃんも「おやすみなさい」と言いました。


 目を閉じます。けれども眠れそうにありません。男の子はすぐに寝ついたようです。寝息が聞こえてきます。


 ルルちゃんはそっとふとんから出て、ベッドの下におりました。そして気づきました。壁が、光っているのです。


 なんだか前にもこんな光景を見たような気がします。壁から30センチほどのところが、青白く楕円形に光っています。ルルちゃんは近づきました。そして、特になにも考えず、光をくぐりました。




――――




 またトンネルです。といっても、ルルちゃんは最初のトンネルを覚えていません。


 ルルちゃんは歩きます。トンネルは前とは少し変わっていました。黒い葉っぱのようなものが天井をうめています。よく見ると、その中に光るものがありました。


 なにかしら、とルルちゃんは目を凝らしました。飛んで近づいてみます。それは小さくて白くて丸いものでした。実のようにも思えます。


 ルルちゃんはそれを取って、ぽいと自分の口の中に入れました。おなかが空いていたのです。実のようなものは甘く、すっぱく、そこはかとなく苦く、知っているような知らないような、食べたことがあるようなないような、複雑な味がしました。


 それは一つだけではありません。ぽつんぽつんといくつか存在していました。ルルちゃんは取っては食べました。


 食べながら、進みます。そのうちに頭がはっきりしてきました。そうです。自分は四人の人間たちと暮らしていました(ほかにもなにかいたような気がします)。大人の男性と女性がいます。子どもの男性と女性がいます。


 そう……みんなすてきな人でした。特に自分は、男の子と仲良しでした。その子とは、特別な絆で結ばれているのです。


 自分はその男の子が大好きでした。ほかの人間たちも大好きでした。男の子は、名前をつけてくれました。そう、名前があったのです! 大好きな男の子がつけてくれた、大事な名前が――それは――。


 前方に光が見えました。ルルちゃんはそれをめがけて飛んでいきます。


 その名前は、大切なその名前は――。




――――




「ルルだよ!」


 ルルちゃんは叫びました。そして、トンネルからいきおいよく飛び出しました。


 そこは暗い、けれどもよく知ってる場所でした。カイの部屋です。夜だから暗いのです。カイがベッドで眠っています。


 なんでこんなところにいるのだろう、とルルちゃんは思いました。目を覚まし、ねどこから抜け出したところまでは覚えています。けれどもそれから先がはっきりとはしません。


 ああ、トンネルみたいなところにいたような気はします。そこでおいしい白い実を食べました。あれは夢だったのでしょうか。


 寝ぼけたのかもしれません。ルルちゃんはねどこに戻ろうとしました。が、なんとなく、胸さわぎを覚えて、窓に近づき、カーテンを開けて外を見ました。


 暗い庭が見えます。けれどもそこに光るものがあります。地面から数センチのところで浮き上がっているようです。ルルちゃんはどきんとしました。


 窓を開けると、冷たい空気が入ってきます。ルルちゃんは飛んで、庭へと下りました。光るものの近くにです。


 それはバスケットボールほどの大きさの球体でした。なめらかな銀色で、光りかがやいています。その近くに、とても奇妙でとても小さい生き物がおりました。


 小さな石に腰かけて、うなだれておりました。大きさは5センチほど。クワガタムシにそっくりです。けれどもクワガタムシは石に腰かけることなどできません。だから、クワガタムシではないのです。


「どうしたの?」


 ルルちゃんがそっと声をかけました。生き物は、悲し気に言いました。


「家に帰れないのだよ」

「なんで?」

「地図をなくしてしまってね。ばらばらになって、いろんな世界にちらばってしまったのだ。もうほとんど回収した。が、最後のひとかけらが見つからないのだ。たぶん、この辺に落ちたと思うのだが……」

「それ、どんなの?」

「黒くて薄くて四角くて、出っ張ったりへっこんだりしているものだよ」


 ルルちゃんは、はっとしました。この前、庭で拾った、あの謎の黒いもののことを言ってるのかもしれません。

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