3
下校の時間になりました。カイが家までの道を歩いていると、ばったり、同じく下校途中のシズクちゃんと出くわしました。会いたくない相手です。けれど、知らんぷりをするわけにもいきません。
シズクちゃんとカイはならんで歩きました。今日、学校で会ったことなどをとりとめなく話します。どういうきっかけからか、将来の話になりました。
将来、どんな仕事をしたいか、といったことです。
シズクちゃんは言います。
「わたし、いろんな国に行ってみたいの。そこでいろんなものを見て、いろんな経験をして、そういったことを本にまとめることができたら……」
「本を出すのってむずかしいんだよ」カイが言います。「そんなにかんたんに出せるもんじゃない」
「そうね」
シズクちゃんはそう言って、口を閉じました。
カイは歩きながら考えます。自分はどうでしょう。将来、なにがやりたいのでしょう。今のところはごくふつうの少年です。ものすごく得意なことがあるわけではありません。なので、ごくふつうの人生を送ることでしょう。
ごくふつうの人生! それはそれでとても上出来なものに思えます。けれどもそれをここで言うのはためらわれました。
シズクちゃんはかしこいので、ごくふつうの人生ではなく、なにかもっとすごいことをするかもしれません。もっとも、この世界は魔法の世界なので、シズクちゃんのそしてカイの魔力がどんなものでどの程度の大きさになるかで、将来の道も変わっていくでしょう。
けれどもカイは自分がそんなに立派な魔力の持ち主になれるとは思えませんでした。シズクちゃんは……どうでしょう。明日、魔界からやってくるシズクちゃんの相棒は、どんな姿なのでしょう。
どうしても思いがそこに行ってしまいます!
「記者になるのはどうかな」シズクちゃんがふたたび口を開きました。「新聞記者とか。そして外国に派遣してもらうの。そうしたら――」
「記者になるのもむずかしいよ。高倍率だよ」
シズクちゃんはふたたびだまりました。カイもだまりました。二人はそのまま、だまったまま歩いて、曲がり角でお別れしました。
カイは不機嫌な気持ちで家までの道を歩きました。シズクちゃんは気分を悪くしたに決まっています。自分はどうしてあんないじわるなことを言ってしまったのでしょう。
考えてもわからない――いえ、よく考えればわかるかもしれません。けれどもカイは考えたくありませんでした。
――――
家に帰り、自分の部屋へ行きます。そこにはルルちゃんとウララちゃんとゴエモンがいました。
ルルちゃんとウララちゃんが一緒に歌を歌っています。それに、しぶしぶといった態でゴエモンが付き合っています。よく見る光景でした。
けれどもこのときは、妙にカイの気にさわりました。
ルルちゃんがカイに気づいて「おかえりなさい」と言います。続いてウララちゃんが「おかえりなさい」と言います。ゴエモンも「おかえり」と言いました。
カイはかばんをおろしてルルちゃんに言いました。
「ルルちゃんって、いつも幸せそうだね」
「うん!」ルルちゃんが元気よくうなずきます。「ルルは幸せだよ! だって、毎日おいしいものが食べれるし、気持ちの良いねどこもあるし、それに周りのみんなはやさしいし……」
「それにウララちゃんもいるし」
ルルちゃんが赤くなりました。照れながらルルちゃんは言いました
「そうだね、ウララちゃんもいる」
「いいよね。そんな――」
カイがウララちゃんを見つめます。カイの皮肉っぽい様子に、ルルちゃんはようやく気づきました。
「そんな、なに?」
ルルちゃんが少し警戒してたずねます。カイは一瞬迷いました。そんな存在しない女の子に夢中になれるっていいね、と言おうとしたのです。けれどもなにかがそれをおしとどめました。
そこでカイは多少違うことを言いました。
「……そんなものに夢中になれるっていいね。ルルちゃんはまだ子どもなんだ」
「そんなもの!?」
ルルちゃんがとびあがりました。「ウララちゃんは『そんなもの』じゃないよ! なにを言ってるの!?」
「カイや」
横からゴエモンが口をはさみました。「なにがあったか知らんが、ルルをいじめるのはやめなさい。ルルはたしかにまだ子どもなんじゃ。この世にあらわれてから数か月ほどしか経っておらぬ。だからわしらは、ルルに対して寛容な気持ちで接し、教え導き――」
「なに言ってるんだよゴエモン。ゴエモンだってまだ子どもじゃないか。ぼくよりずっと年下だろ」
「子どもではない!」
今度はゴエモンがとびあがり……ではなくて、すっくと立ちあがりました。怒りをこめて、ゴエモンはつま先だちの姿勢でカイに抗議します。
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