第41話 追放サイド:没落への道(その14) & 追放サイド極東編:クズ家族崩壊への道(その1)

「では、今度はこちらの番だな」


 ジン・カミクラの瞳が蒼く輝き、きゅっと細くなった。それに呼応するように、俺様の短剣たちが渦を巻いて天高く舞い上がる。


 まるで――黒い竜のようだった。


 俺様は腰砕けとなり、その場にへたり込んでしまう。足が動かない。指先を見ると、激しく震えていた。


「このナイフたちは、お前のだったな。さあ、返してやろう。受け取るがいい」


 青白いジンは、無機質な笑いを浮かべると聖槍の切っ先をくいっと突き出した。その瞬間、黒い濁流となって短剣たちが俺様へと降り注ぐ。


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」


 やられる! やられてしまうううう!!


 俺様は地面に伏せて、頭を抱える。現実を拒絶するように視界を塞ぐ。テンガイ! テンガイ!! な、なんとかしろよおおおおおおおおっ!



 ――その願いは、思いもしない形で達せられることになった。



 ガギイイイイイイイイッ!!!


 甲高い音が鳴り響いた直後、静寂が訪れた。


 な、なんだ……。どうしたのだ?


 ゆっくりと目を開けると太陽の光に目が霞む。地面に俺様の黒刀が散らばっていた。微かな視界の中に、人影が見える。その風貌は大陸の者ではなく、極東の着物という服装に見えた。サムライとかいう剣士の特徴に似ている。


「だ、誰だ……貴様は」


 蒼きジンの前に立つ男へと、俺様は震える声を投げかけた。



 ◇ ◇ 視点変更 ザン・カミクラ視点 ◇ ◇



 オレはザン・カミクラ。修行の旅をしている。極東剣帝一家の長兄として、雪原の大陸をどこまでも歩き続けていた。そんな中――奇妙な光景を目撃する。


 名も知らぬ男と、オレたちの不出来な四男――ジンに見える人物が対峙していた。あのゴミを追い出したのはガキの頃だったこともあり、確信は持てない。が、それでも目の前の男はジンに似ていた。それに剣帝一家にだけ流れる血の匂いを微かに感じる。これだけは変えようがないであろう。それにしても、あれが本当にあのクズ四男のジンだろうか。奴から発せられるオーラは禍々しく、そして圧倒的だった。


「では、今度はこちらの番だな」


 青白い服を纏ったジンらしき男がそう告げて、槍の切っ先を突き出した。それと同時に奴の回りを浮遊していた黒刀の群れが座り込んでいる男めがけて降り注いだ。


 オレは、瞬間的に地面を蹴った。


 二人の間に割って入り、剣技を振るう! 《超絶剣技 烈風斬》!!


 剣帝一家の秘技を使い、瞬時に黒刀たちを叩き落とす。


「だ、誰だ……貴様は」


 後ろから情けない声が聞こえてきたが、構っている暇ない。何故なら、オレの目の前に立っているのは、やはりクズでゴミな四男――ジンだったからだ。


「よお。何年ぶりだ? ジンよ。まさか生きていたとはな。ははははっ!」


 愉快だ。愉快でたまらない。とっくに野垂れ死んでいたと思っていたウジ虫以下の弟をもう一度、倒せるのだ。そう思っただけで背筋がゾクゾクしてきやがる。オレはジンをいたぶるのが好きだった。たまらない快感だったのだ。


 まさか――もう一度、味わえるとは!


 と笑い声を張り上げた瞬間、オレの腹部に深々とジンの槍が突き刺さっていた。


「え?」


 オレが状況を理解するよりも早く、ジンが口を開いた。


「よおクズ兄貴。俺も会いたかったよ。――じゃあな」


 直後、自分の口から大量の血液が我先にと溢れ出した。


 ジンが槍を引き抜くと同時に、オレの身体は瞬時に凍りつき、僅かな間を置いて爆散した。頭だけは辛うじて原型を留め、地面に転がる。


 何が――起きた?


 自分でも理解が追いつかないまま、極東最強とまで謳われたオレの生涯は終わろうとしていた。意識が消える最後の最後――ジンが言った。


「剣帝一家の長兄がこの弱さとは……ゴミ以下のゴミだな」


 オレが、やられた、のか? ジンに? あのクズの弟に?


 そんな、そんな馬鹿な……。


 走馬灯のように、ジンとの思い出が駆け巡る。いつもあいつのことを無茶苦茶にしていた。兄弟三人で木刀を握り、滅多打ちにする。連日、爆笑しながら弟を叩き潰す。楽しかった。


 親父もそれを見て見ぬ振りをしていた。そりゃそうだ。あのクソ親父の関心は強いか、弱いか。それしかない。


 子供の頃、猛吹雪の屋外へとジンを追い出し、弟たちが残飯と肥溜めの中身をぶち撒けたあの夜。オレたちは大爆笑し、夕食を楽しんだ。それから修行を続け、オレは剣帝となった。


 そうだ。オレは剣帝だぞ。そのオレが、何故、クソ雑魚のジンになど……。


 雪を踏みしめる音が近づいて来た。足音はオレの首の前でぴたりと止まる。それから最弱のはずだった弟は、オレの頭を躊躇なく踏みつぶした。

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