第21話 大聖女と魔王、禁断の共闘へ!

「さあご主人様、召し上がれ」


「さあジン。ゆっくり味わってくれ」


 大聖女アリスと、魔王リベルが俺のために作ってくれた料理が目の前に運ばれてきた。

アリスのは魔牛のスペアリブ、リベルのは聖牛のビーフシチューである。これは……どちらも芸術と呼んでいいレベルだ。聖女が魔牛を、魔王が聖牛を調理しているところがまたオツだ。


「ご主人様。スペアリブといえば豚さんが多いですが、牛さんのもとってもおいしいんですよ。じっくりと煮込んだお肉にママレードを使って、こくと甘さを出してます。煮込む時にお肉に小さな穴を開けてありますので、味がよく染み込んで絶品ですよ!」


 おおお! これが大聖女アリスのスペアリブ! 豪快な肉塊にとろとろのソースがたっぷりとかかっている。全体が照り照りでよだれが出てしまう。なによりも骨付き肉は絵的にごちそう感が凄まじい。


 一方、リベルの料理は――。


「ジン。このシチューはすばらしいよ。オニオンを溶かして、赤ワインと融合させたデミグラスは深いコクを出す。そして、ほろほろになるまで煮込んだ聖牛のもも肉がソースを貪欲に吸い尽くし、やがてそれらは一つの料理へと進化していく。それがビーフシチューだよ」


 これが魔王リベルのビーフシチュー! 野菜と肉とワインが手を取り合い、最強のチームとなっている。深いとび色が濃厚さを表し、立ち昇る湯気は食欲をそそる。無限の欲望が止めどなく溢れていく。


「さあご主人様、めしあが――」


「ジン、温かいうちに食べ――」


 俺がフォークとスプーンを手にしたその瞬間。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


「な、なんだあ!?」


 宮廷の外から鼓膜を貫くほどの轟音が轟いた。建物全体が大きく揺れる。


「きゃあっ! い、一体、何が!?」


 アリスがよろけたところを抱きとめる。


「これは――魔王だ」


 リベルが目を細めて呟くと、外へと駆け出した。


「お、おい! リベル、待て!」


 魔王だと? どういうことだ。リベル以外の別の魔王が来たのか? まさかその魔王も俺を狙っているのか。SSSドラゴンマスターの力を。


 胸に手をあて、語りかける。デュランダル。デュランダル。……だめか。まだ彼女は寝ているようだ。自分でやるしかなさそうだ。


「状況を確認しなくてはなりません! わたしたちも参りましょうジン!」


「ああ! って、あれ? ご主人様の呼び方は?」


 アリスがウインクをして、俺の頭をぽんと撫でる。


「あれはジンのお世話をしてあげるときだけですよ。今度は二人だけの時に、もっと言ってあげますからね」


 お、おお。お世話してくれる時だけか……。でもまあ、限定感があって、それもまた甘美かな。なんて言ってる場合ではない!


 アリスとともに宮廷を飛び出すと、すでにリゼルが青空にいた。そして、彼の前方には見たこともない純黒の悪魔が真っ赤な翼を広げている。あれが――新たな魔王、か。


「アリスはここで待ってろ。行ってくる」


「何を言うのです。わたくしも戦いますよ。わたくしは皇女アリス。そして大聖女。この国を、皆を守る義務があるのです」


 アリスの紫紺の瞳が揺るがない意思を示していた。


「よし。わかった。けど無理はするなよ!」


「はい!」


 俺たちは二人揃って、浮遊魔法を唱える。


《自在飛翔 グラビティ・ゼロ》


 瞬時に飛び上がり、リベルの横へと並ぶ。そのまま新たな魔王を見据えた。夜よりも暗い黒のマントを纏い、所々から赤い魔素が漏れている。金色の髪が逆立ち、瞳孔のない白い眼球がぎょろぎょろと蠢いていた。空が徐々に赤黒く染まっていく。


「おいリベル。あいつは――」


「彼は黒縄区域を統括する無理性の王――魔王テンガイさ。会話は一切通じない。やるか、やられるか。それだけが彼の真実さ」


 なるほど。わかりやすくて助かるよ。ん? テンガイから、何か懐かしいものを感じる。これは――なんだ? これは、もしかして。


「ジン。それから彼は、その体内にSSS級ドラゴンを無理やり封印している。自らの糧とするべく、力で従属させているんだ」


「SSSを……この懐かしさはそういうことか」


 俺は意識をテンガイの中へと投げかける。奴の体内をくまなく探し、一際深い「闇」を捕まえた。俺は「闇」に話しかける。


 おい。おまえはSSS級ドラゴンか? 俺の声が聞こえるか。


 ややあってから、微かな思念が俺に流れてきた。


「主、様……た、すけて、私の主様。私は、闇の加護者、SSS級ドラゴン、ムラクモ・アスカ」


 ムラクモ――か。待ってろよ。今、救い出してやる。俺は両翼にいるリベルとアリスに声をかけた。


「リベル、俺が奴からドラゴンを解き放つ。可能な限り注意を惹きつけてくれ。アリス、お前は地上へのダメージを防いでくれ。一人も死なせたくない」


 二人は俺へと目線を送ると、薄く笑う。


「了解だよ、ジン。やはり君は頼もしいね」


「わたくしも承知いたしましたわ。地上へは指一本、触れさせません!」


 魔王と聖女の共闘とはね。全く、人生はなにが起こるかわからないものだ。極東の地を追われ、帝国竜騎士団を追われ、今、ここにいる。不思議なものだ。だが、ここに至るまでに培った全ての力で魔王テンガイ、お前を倒してやる。


 そして――ムラクモ。お前を救う!


「いくぞ、二人とも! 力を貸してくれ!!」


「無論だよ。まかせてくれジン」


「はい! わたくしの全てをジンに!」


 さあ、それじゃあ魔王を倒そうか。戦闘開始だっ!

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