第20話 大聖女と魔王のお料理対決!
「アリス。できれば魔牛と聖牛でおなしゃす!」
俺と大聖女アリスと魔王リベルは、宮廷の調理場に並んで立っていた。無論、調理師たちがいるのだが、アリスが自分で作ると言いだしたからである。給仕の人たちが言うには彼女の料理は絶品らしく、宮廷内でも評判がいいらしい。そうなれば俺も当然、味わってみたい!
アリスが急にもじもじとして、俺にすり寄ってきた。彼女の頬が薄く色づいている。どうしたのだろうか。
「ご、ご主人様、待っててね。とびきりおいしいのをご用意しますね。きゃ、いっちゃった」
ご主人様? なんだその魅惑のワードは。こんな美少女に上目遣いでそんなことを言われては、頭がクラクラしてしまう。
「アリス、その呼び方はまずいだろ。君はここの皇女で大聖女だろが」
「んー。なんだかそのほうがジンが喜びそうだなあ、と思って。いや?」
いや。いやいや! いやではありませんよ。そりゃもちろん。俺だって男の子ですから! SSS級の背徳感に塗れながら、アリスの頭をやさしく撫でる。ふわりとした彼女の銀髪が心地よい。
「あ……もっとナデナデしてください。ご主人様あ……」
おおおお……。こ、これは、とろけるような一時である。このまま時間が止まればいいのに……。
「止まんないよ。ジン」
魔王リベルが腕組みをして、俺とアリスの間ににゅっと割って入ってきた。いかんいかん。理性の限界領域を超えてしまうところであった。
「ジン。ボクも料理が得意なんだ。とびきり美味な魔界料理をごちそうするよ。きっと、あんな発情大聖女よりもボクの料理を気に入るはずだよ」
「そんなことありません。ご主人様はわたくしのお料理にメロメロになります」
「ふ。所詮は人間が作る料理。ボクの魔料理には――到底、およばないさ」
美少女と美少年が俺の料理で揉めている。なんとも甘美な光景ではあるが、これはいかん。何故ならば、揉めている暇があったら早く作って欲しいからである。俺はリンカネーションの余波なのか、腹がものすごく減っているのだ。
「よしよし二人とも。仲良くしような」
俺は同時に二人の頭を撫でる。リベルのピンク色の髪もさらりとして手触りがいい。
「「あ」」
そして二人とも同時に、愛らしい声を上げる。
「それでは、ただいまより聖女と魔王の料理一番勝負を開始します。勝者には商品を……あー、なにがいいかな?」
俺が決めかねて思案していると、リベルが口を開いた。
「ジン。では勝ったほうには君から、ほっぺにチューをプレゼント、というのではどうかな?」
なに? ほっぺにチューだと。それではどちらかというと俺への商品ではないのか? しかし流石にそれはアリスも嫌だろう。
「ほっぺにチュー。ご主人様がほっぺーにチュー……チュー……燃えてきましたわああああああっ!」
あ、なんかいいみたい。じゃあそれで行こうかな。
「で、では。勝者には俺からほっぺにチューということで……お料理対決、始め!」
こうして大聖女アリスと魔王リベルの戦いの火蓋が切って落とされたのである。
「魔王リベル! この戦いだけは――絶対に負けられませんわ! この命を賭してでも!」
「それはこっちの台詞だよ。大聖女アリス。さあ――魔界の力を思い知るがいいっ!」
まるでラストバトルのようなやりとりだが、あくまでお料理対決です。はい。
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