第15話 魔王が来た!
「うーん……あれ、俺どうしたんだっけ?」
目が覚めると、そこはよく整った客室のような場所だった。俺はふかふかの馬鹿でかいベッドに寝かされている。外はいい天気のようだ。少しだけ開いた窓から、心地のよい風が入ってきている。
はて。さて。うーん……。
だめだ。いまいち記憶が曖昧だな。確かフィオナと入団試験をやって、魔牛と聖牛を食って、その後……そうだ。リラ!
俺はベッドから飛び起き――れない! 全身に激痛が走った。
「いでぇぇっ! な、なんじゃこりゃあ!」
この痛みは何だ……。さらに記憶を辿り、原因を検索する。えーとリラを追って、農村でゴブリンキングと戦って……ああ、思い出してきた。蘇生秘術リンカネーション。あれを使ったダメージだな。これは。
デュランダルが生命を削られると言っていたが、どうやらその通りみたいだ。でもまあ、だらだらと長く生きるより、短くても花火みたいに激しく輝いて生きるほうがきっといいはずだ。ほんとは長く生きたいけど。
とにかく済んでしまったことは仕方ない。切り替えて行こうかね。とは言いつつも、身体中がバキバキで全然動けない。困ったな。ああ便所に行きたくなってきた。
「仕方ない。覚悟を決めるときだな」
俺は決意を固めると、グギグギと鳴る身体を引きずって寝台を降りた。降りたというよりも落ちた。うう痛い。けど漏れそう……だ。
どうにか立ち上がりヨロヨロとドアを目指す。軋む腕を上げて、ドアノブを掴んだその瞬間、勢いよく戸が開いた。俺は扉に引っ張られて、開いた方向へと勢いよく倒れ込んだ。
むにゅ。
あれ。なんだかとても感触のいい物体に受け止められている。
「ジ、ジン」
リラの声がした。俺はクッション的な物に手をついて顔を上げる。そこにはエメラルドのように澄んだ瞳と整った鼻梁があった。つまりはリラさんのご尊顔である。実はもう薄々気づいていたが、やはりこの柔らか素材は彼女の胸だった。
「あ、リラさん。あのね。これは不可抗力で、やましい気持ちがあるわけではないのだよ。ね?」
苦しい言い訳をしながら、薄目でリラを見る。彼女は赤い顔をしたまま、俺を胸に抱きしめた。え。どういうこと?
「ジン。よかった。気がついたんだね」
「え? ああ、そう、みたい」
どうやら怒られないで済んだみたいである。何故だかは、不明だが……。
「ジン。本当にありがとう。本当に……」
リラは涙ぐみながら頬を朱色に染めている。熱でもあるのだろうか。彼女もゴブリン戦のダメージが残っているのかもしれない。しかし今は可及的速やかに尿意の処理をしなければならない。話はその後だ。
「ジン。どこに行こうとしてたの?」
「いやなに。便所に行こうと思って。ここ西欧聖女騎士皇国か? 誰かが運んできてくれたわけ?」
「うん。そうだよ。ジンがゴブリンたちを倒してくれた後、生き返った農村の人たちが運んでくれたの」
そうか。そういうことか。それにしてもリラが妙に大人しい。案外、かわいらしいところもあるんだな。城門で絡んできた時とは別人のようだ。
「ジ、ジン。そ、そんなに見つめられると、恥ずかしい、よ」
「あ、ごめんごめん。それより便所に……って、あらら」
力が抜けて、うまく歩けない。リラがさっと支えてくれたおかけで、転ばずに済んだ。
「あたしが連れいていくよ。肩につかまって」
情けないが、ここはお言葉に甘えて……って、リラさん。ここからはもう男性用便所だから、入り口まででいいですよ。
「大丈夫。ジンのなら、大丈夫だから」
いや。大丈夫じゃないです。
「ひ、一人でやるからいいよ! つーか、恥ずかしいだろうが!」
「そ、そう? でも、歩けないんじゃ……」
それは確かにそうだが、壁伝いに歩けばなんとかなると思う。
その時である。
聞き慣れない声がしたのは。
「では、そこから先はボクがお手伝いするよ。SSSランカー、ジン・カミクラ」
俺とリラがほぼ同時に振り返ると、見慣れない小綺麗な男の子が立っていた。年の頃は十歳くらいか。ピンク色の髪に金色の瞳。黒いローブと学生服のような出で立ちである。
「えーと。君は誰? リラ、知ってる子か?」
俺の問いにリラは首を振る。一方の男の子は、ニヤリと笑って玲瓏な声で返事をした。
「ボクはリベル・フォン・ミハエル。――魔王だよ」
へ? 魔王? 俺とリラは顔を見合わせて、目をぱちくりと瞬かせた。
魔王。魔王か……。
どうやら、またまた一悶着ありそうである。はあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます