第10話 追放サイド:没落への道(その2)

 その報せは、SSS級ドラゴンであるグングニルの探索任務中に届いた。


「おい、お前たち! 皇帝陛下が直々に俺たちをお呼びだそうだ!」


 帝国竜騎士団第七小隊長である俺様は、喜びを抑えきれずに大声で叫んでいた。宿の外はすっかり暗くなっていたが、構うことはない。


「本当ですか! 小隊長」


「すごいすごい! 陛下が直接、俺たちを!」


 宿の食堂で、部下たちは喜びに震えていた。


「あ、あのお客様。他のお客様のご迷惑になりますので、どうかお静かに」


 給仕係が俺様たちに舐めた口を聞いている。だが今は陛下のおかげで機嫌がいい。特別にこれで許してやろう。俺様は空になったワインの瓶を手に取った。


「ああ。悪かった……なあっ!」


 派手な音を立てて、瓶が給仕係の頭に炸裂した。


「ぎゃあっ!」


 給仕係はやかましい悲鳴を上げて、血を流しながら逃げていく。情けないやつだ。お前のほうが、よっぽどうるさいではないか。


「全く、とんだ邪魔が入ったな。この封書を見ろ、お前たち」


 俺様は皇帝陛下の秘書から送られてきた手紙をテーブルに広げる。部下たちが集まり、紙面を注視した。


 手紙にはこう記載されている。



 第七小隊の面々。

 皇帝シュナイゼル・シュナイダーである。


 日頃から任務に励む貴様らの働きに、余はうれしく思う。

 特にドラゴン探索の成果には、目を見張るものがある。

 よって汝らに褒美を取らせる。


 これからも他の隊員たちの手本となり、帝国軍人として恥じぬよう任務に励め。



「おお! これが陛下の直筆!」


 皇帝陛下の直筆に隊員たちは喝采し、中には涙を流している者もいた。紙面には陛下からの文章の他に、褒章授与の式次第と、会場である城内大広間への案内が記されている。


「あ、裏もあるみたいですよ」


 部下の指摘に気がつき、俺様は手紙を裏返した。


「裏があったとは。俺様としたことが見落としていたぜ」


 裏面を見た瞬間、俺様は全身の血が沸騰するのを感じた。


 指先はわなわなと震え出し、頬が痙攣する。


「ど、どうしたんですか。小隊長」


 副長が手紙の裏側を覗き込み、息を詰まらせる音がした。


「しょ、小隊長。こ、これは……」


 裏面にはこう記されていた。



 追伸。

 特にSSS級ドラゴンマスターであるジン・カミクラを帝国側に引き入れたことは大義であった。

 彼の者の聖痕をよく見抜いた。

 捜索隊が聖痕者を長きに渡り探していたが、貴様たちのおかげで余の大望が叶う。


 授与式には、必ずジン・カミクラも連れて来るように。

 盛大なパーティーになりそうだ。

 余も久方ぶりに楽しもうと思うぞ。



「な、なんだ、なんの冗談だ、これは!」


 俺様は陛下の手紙を、激情のまま破り棄てた。


「ああ! なんてことを」


「た、隊長! どうしたんですか!」


「やかましい!」


 騒ぎ立てる部下を突き飛ばし、俺様は食堂のドアを蹴破った。そのまま全速力で宿を飛び出し、獣のように咆哮を上げる。


 ――どういうことだ!? ジン・カミクラがSSS級ドラゴンマスター? 


 そんな馬鹿なことがあるものか!


 あいつは、Fランクのドラゴンとも契約できないゴミ野郎ではないか!


 そうだ。これは間違いだ。


 これは何かの間違いだ! そうに決まっている!



 この時、俺様はまだジン・カミクラが特別な存在であることを認めることができなかった。それが自身にとって、さらなる悲劇を呼ぶことを――俺様はまだ知らない。

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