第933話

前回会った時は魔王は違う姿だった。


だから俺がこの姿の魔王と会うのは初めてだ。


もしかしたらこの姿も本人じゃないのかもしれない。


彼が本物の魔王なのか?


何故魔王がここにいるのか?


魔王以外の座っているやつらは誰なのか?


そんな事はどうでもいい。


俺がこいつが魔王と確信した理由‥


俺のアキーエを『俺の番』なんぞ言いやがった。


俺のアキーエを‥



「ほう。タルタルの男も一緒にいたのか。まあ俺の番を守るためにも、お前程度の男は必要やもしれんが‥」


「ふっふっふ‥やはり貴様は死にたいようだな。」


魔王や勇者の関係などどうでもいい。


俺のアキーエにまとわりつく害虫は倒さねばなるまい。


「ふん。面白い。この間のようにはいかんぞ。表に出るがいい。」


「望むところだ‥」


俺は『スペース』からタルタルがたっぷり入った樽を‥



「そこまでにしていただいてもよろしいでしょうか?」


俺と魔王が一触即発のところに、それまで黙って座っていた女性が声をかけてきた。


「せっかく集まっていただいたのですから、建設的な話をいたしませんか?この場にいるお二人‥魔王と勇者にとっても聞いておくべき話だと思いますが‥」


「俺は勇者じゃないぞ。」


俺はすぐに答える。


俺を勇者と勘違いしているのか‥

呼びつけはしたが、勇者の顔はしらないってとこか。


「彼が勇者だ。」


俺は正人の方を指差す。


「ちょりーっす。ただいまご紹介に預かったっぽい勇者の正人っす。気軽にマサちゃんって呼んでくれていいっすよー!」


でかい頭が近寄ってくる。


「お前は‥勇者‥」


魔王が反応して剣に手をかける。


俺は正人の前に立ち、魔王の攻撃に備える。



「ん?何故だ?衝動が起きない‥?」


魔王が不思議そうな顔で正人を見ている。


「もしやお前は勇者ではないのか?確かに前回見た時と頭が違うようだが‥もしや替え玉か?」


そうだな‥

こんなでかい頭のやつが勇者とは思わないだろう‥


いや、これは頭がでかいやつに対する偏見だな。

頭がでかくてもまともなやつはいる。


正人は違うけど‥


「いや、正真正銘の勇者だぞ。」


確か前回戦った時に魔王が言っていたな‥

勇者が近くにいるとスキル【魔王】が反応するみたいな感じだったか。


「これは一体どういう事だ?俺は勇者が来るとは聞いておらんぞ。それにスキル【魔王】が反応しないのは何故だ?説明してもらおう。」


魔王は座っている女性と、もう1人の男を睨みつける。


「まあまあ。そう睨まないでくださいませ。私が皆様を呼んだのは、その件もあってなんですよ。」


「ふん。お前らは信用ならん。特にそっちがな!」


魔王は男を更に睨みつける。


「ところで勇者様にはご紹介がまだでしたね。私はこのエルフ国を納める女王プラスティック・レイノネンと申します。そして彼は私の協力者のアムピオンです。」


やはり彼女がエルフ国の女王だったか‥


しかし‥


お前らわざとだろ。


いや、プラスチックは不燃物だ。

姉弟の違いという事か‥


ん?

ならロメントは養子か何かか?


「協力者?見たところ魔族のようだが、魔王である俺がエルフ国の女王に助力できるほど力を持った魔族を知らぬとはな‥不愉快だ。」


「私は魔大陸生まれではありませんからね。魔王様が知らないのも仕方ないのかもしれません。まあ魔大陸じゃないので、魔族だからという理由で忌み嫌われ地獄のような日々でしたけどね。」


まあそうだろうな。

普通は魔族ってだけで討伐対象だ。


それにしても段ボールが言っていた黒目黒髪の男が見えない。


そいつが何者か、ここに来ればわかると思ったが‥


「魔王様、それに勇者様。あなた方どちらかか出現した時に、もう片方も出現する。これは昔からの言い伝えではありますが、もしこれが本当だとしたらどう思いますか?」


女王が魔王と正人を見ながら問いかける。


シリアスな会話だが、正人の頭がシリアスの邪魔をする‥


「ふん。確かにそうかもしれんな。スキル【魔王】は我に突然発生した。本来スキルという物は魂に紐付けられているものだろう。それなのに突然スキルが発生したのだ。スキル【勇者】とスキル【魔王】が何かしらの関係があるのは明らかだ。だがそれがどうした?これはこの世界の決まりなのであろう。ならばそれに従うしかあるまい。」


やはりそうか。

正人たちが召喚されてから魔王の噂が流れ出した。

それまで魔王がいたのであればわかるが、突然出現したのであれば相互関係にあるスキルなんだろう。


「従うしかない‥ですか。もしそれを防ぐ手段があるとすればどうですか?」


「防ぐ手段?」


「ええ。それは‥‥‥人族をこの世界から消せばいいのですよ。」






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