第903話

アルトス‥


キリーエの兄で、ホット商会で成功しているキリーエに突っかかってきた人だ。


まあ大商会の長男としては妹が自分よりも高い成果をあげていたら、商会を乗っ取られるんじゃないかと戦々恐々かもしれないな。


実家に挨拶に来たキリーエをわざわざ呼び止めて、どんな手を使おうとも商会を継ぐのは俺だ、みたいに宣言してたもんな‥


キリーエはホット商会で成功しており、キリーエの実家も食材関係の卸売だから、顧客が被るような事はないはずだ。

それにキリーエ本人が家は継がないって言ってたんだけどな。


まあ他人がどうこう言っても、本人の思い込みはそうそう変わるものでもないだろう。


「国王とかは知ってるのか?」


「おそらく知ってるとは思うが‥ギルマスがある程度の報告はしているが、詳細は調べてから報告するそうだ。大きな商会の話だし、ギルマスにとっては生まれ故郷の事だからな。慎重に事をすすめているらしい。」


そうだった。

王都のギルマスであるサベントさんはエルフだったな。


「そうか‥生まれ故郷だから、出来れば穏便に済ませたいはずだもんな。」


でもサベントさんもそんな事を気にする人なんだな。


あの何事も淡々と物事をすすめる氷の様な人でも、やっぱり故郷は大事って事か。


まああの淡々とすすめる様子も綺麗だと様になるんだよな。

基本エルフは美男美女だから何をやっても絵になるだが、ただ一つ惜しむべきは、真っ平らな胸の草原くらいだ。


あの草原は水をやっても何をしても育たないらしく、種族的な問題らしい。


「いや、そうじゃなくてな‥」


ん?

ああ、サベントさんがエルフの国を気にかけてる話だったな‥


「ギルマスはあくまで公平な立場でやってるつもりなんだろうけど‥ギルマスは生まれ故郷が好きじゃなくてな‥つい過剰に反応してしまうんだよ。」


「生まれ故郷が好きじゃない?何かあったのか?」


「そうだな‥マルコイはエルフが他種族を嫌ってるのは知ってるか?」


「ああ。エルフは他の種族を下に見てるらしいな。下等な種族と付き合うつもりがないから引きこもりしてるんだろ?」


確かそんな事を『教えてアキーエさん』に聞いた気がする。


「ああ。ギルマスみたいな人は稀で、ほとんどのエルフは自分たちの国から出る事はない。それをどうにかしたいと思ってギルマスは色々とやってたらしいんだけど‥」


俺が知ってるエルフと言えば、サベントさんと変態くらいだしな。


サベントさんは冒険者として何度か話をした事もあるし、スキルの事を俺から伝えた数少ない人だ。


変態は‥‥‥


変態だ。


サベントさんは他種族を下に見ている感じはしなかったが、変態については最初に会った時はそんな目をしていたな。


まあボコボコにして変わったけど。


「何度かエルフの国に戻って、女王を説得しようとしたらしいけど無駄だったらしい。仕舞いには他種族臭いだの洗脳されているだの言われて蔑まれたらしい。」


う〜ん、それは酷いな。


サベントさんは国のためを思って行動してたが、それなのにその言われよう‥


まあ自分たちはこれでいい、これで正しいと思ってる人たちを変える事は容易い事ではないからな。


「それでギルマスは国を変えるには今国を治めている王家をどうにかしないといけないって思ってるみたいなんだが、その方法がなかったからな。今回の件が何らかのきっかけになるかと思って取り組んでいるらしい。」


「ふ〜ん。でもなんでサベントさんはエルフの国を変えようとしてるんだ?」


「そうだな‥俺もよくわからんが、ギルマスが言うにはエルフの国は徐々に滅びに向かっているらしい。それを防ぐためにって事らしいぞ。」


エルフの国が滅ぶ?

すぐにではないにしろ、少しずつ綻びでも出てるんだろうか‥?


まあ俺としては、当面の問題としてはエルフの国よりもキリーエの兄貴だ。


多分キリーエにも話は伝わってるんじゃないだろうか?


キリーエの事だから、俺たちに迷惑かけないように1人でどうにかしようとしてないだろうか‥?


仲間として頼ってくれるようになったが、身内の事となるとどうなるかわからない。


早まった事をしないといいけど‥


「ありがとうな、バーント。結構大事な情報だった。伊達にギルドの受付で1日暇してないな。」


「暇じゃないよ!おじさんの受付はいつも満員御礼だよ!開店前から並んでるよ!」


「はっはっは。バーント、嘘はいけないぞ。朝からその顔を見たら1日が終わってしまうじゃないか。」


「なんで!?おじさんの顔はにこやかだよ?爽やかな朝が来るよ!?」


「はっはっは!後で鏡を買ってやろう!」


「いらないよ!?毎朝見てるよ!」


しかしエルフの国か‥


忘れてたけど、向こうから近寄ってくるならどうにかしないとな‥


マルコイはバーントさんの家に、玄関から入らない様な大きさの鏡を送ってやろうと思いながらグラスを飲み干すのだった。






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