第895話
ギルドの受付から依頼の詳細を聞き、依頼を受ける事を告げて彼がギルドから出ようとすると青年2人が出入り口の前で待っていた。
「お前ら何をしている?大人しくこの街で宿を探す か、他の街中の依頼を受けないか。」
「はっ!冗談は頭だけにしてくれよ。こればっかりは兄貴の言う事でも聞けねえ」
2人して熱のこもった瞳で彼を見ている。
(いい眼をしている。このまま真っ直ぐに育てばいい冒険者になるだろう‥)
だが今回の依頼は命の危険があるものだ。
とても2人を連れて行けそうにはない。
「馬鹿を言え!お前達2人じゃ死にに行くようなもんだ!オーク達を倒した後に、お前達の骸を俺が引きずって帰るのか?」
「俺達は冒険者だぜ!死ぬ覚悟なんていつでもできてる。でも俺達の知らない所で兄貴が死ぬかもしれないなんて、そっちの方が耐えられねえ!兄貴の背中を守らせてくれ!1人なら無理かも知れねえが、俺達2人なら兄貴の盾くらいにはなれるはずだ!」
彼は2人の青年を見つめる‥
「わかった‥だが、絶対に死ぬな‥危ないと思ったら逃げるんだぞ。」
「ああ。もちろん逃げる時は兄貴も一緒だぜ!兄貴は足が遅いんだから、1番に逃げてもらわねえと困るからな!」
「はっはっは!確かにそうだ!」
青年2人は軽口を叩いているが、表情は決意に満ちている。
(何としても2人は生きて帰さねばな‥)
「ふん。生意気いいやがって。行くぞお前ら!」
3人はギルドの扉をくぐり、依頼先の村に向かうのだった。
剣戟の音が徐々に近づいてくる。
もう戦いが始まってる?
思ってた以上に先行している冒険者の動きは早かったようだ。
更にスピードを上げて音のしている方に駈けようとするが、森の中に入ったため木々が邪魔をして思うようにスピードを上げれない。
もどかしい思いをしていたが、木々の途切れる場所が見えた。
おそらく村を作るためにオーク達が木を切ったのだろう‥
木々を抜けると枝や葉っぱで作ったような、粗末な家々が見えた。
そして村の中央を囲うようにオーク達が見える。
その村の中央あたりでは数人の男と一際大きなオークが対峙している。
そしてその大きなオークが持つ剣が、1人の男を斬り裂いた‥
「「あ、兄貴ー!」」
兄貴と呼ばれたスキンヘッドの男は、その場で膝から崩れるように倒れ込む。
「くっ!マルコイさん、間に合わなかったみたいだ!」
あのスキンヘッド‥
ま、まさか‥
「ラケッツさん、間に合ったんだよ!」
俺はエンチャント:勇敢なる者を発動してオークの群れに突っ込む。
そして数匹まとめて剣で斬り捨てたあと、その場で高く飛び上がる。
空中でエンチャントを穿つ者に切り替え、周りを囲んでいるオークに魔力の弾を撃ち込む。
突然の事に、スキンヘッドの冒険者を斬りつけたオークも動きが止まっている。
俺はそれを確認して風魔法を後方に放ち、一気に大きなオークの元に降り立った。
オークは驚き狼狽えている。
俺は隙を見せたオークの腹に蹴りをぶち込む。
オークは転がるように後ろに吹き飛んだ。
俺は倒れている冒険者に近寄る。
「うっ‥」
よし。
さすがしぶとい。
やっぱりそうでなくっちゃ。
俺は『スペース』からありったけのポーションを取り出して、彼にかけていく。
するとみるみるうちに深く切れていた傷から、肉が盛り上がってくる。
「うっ‥‥すうすう‥」
よし、何とかなったみたいだな。
「「あ、兄貴ー!」」
2人の男が倒れている男に駆け寄ってきた。
「もう大丈夫だ。今からオーク達を殲滅する。悪いが彼を見ててもらっていいか?」
俺は男2人にそう告げる。
あれ?
この2人どこかで見た事あるような‥
「あ、あんたはっ!?い、いや何でもない!あ、兄貴を助けてくれてありがとう!」
むう‥
どこで会ったんだろうか‥
あまりいい出会いじゃなかった気がするけど‥
まあいいや、今はそれよりもオーク退治を優先だ。
俺は地面に倒れ、ゆっくりと呼吸している男を見る。
顔色も良くなってきた。
もう心配いらないだろう。
こんな依頼を受ける人は助ける必要がある。
報酬も少なく、本当に困っている人を助けようとする人は。
それはあの人に似てたからと思っていたが、まさか本人だとは思わなかった。
彼を兄貴と呼んでいた男たちが彼の頭を支えようとする。
しかし滑ったのか、頭は男の手から滑り落ち地面に結構な音を立てて落ちた。
うわっ、痛そうだな‥
まあ頭がスベスベなのが悪いわな。
「ラケッツさん、卓。悪いが彼らをオークから守ってくれ。俺は今からこいつらを殲滅する。」
「わかった。任せといてくれ。」
俺は頷き、オークたちに向き直る。
「お前ら!この国の正統な勇者を傷つけた罪は重いぞ!全員ぶった斬ってやるからな!」
この世界の正統な勇者である、『スキンヘッドの勇者』のガッツォさんを傷つけた事を後悔させてやる!
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