第863話
「うおぁーっ!こ、これが街を救った英雄の力か!」
いえ、それは街を救ったとか関係なく、模擬戦バカのただのアイアンクローです。
「ありがとうございます!ありがとうございます!あ、これ以上は顔が割れそうなので、これくらいで‥」
なぜ顔が割れそうなほど掴まれているのにありがとうなのだ?
多分だが、これは近寄ったらいけないやつと思う。
そっとしておくのが1番だな。
俺は気づかれないように少しずつ後退してその場を去る。
「あっ!マルコイ殿!」
うん、そうだよね。
君って何故か、こういう時って勘が鋭いというか何というか‥
「お、おうアレカンドロ。お前いったい何をやってるんだ?」
「いえ、自分なんかが英雄なんて烏滸がましいと思ったのですが、英雄の強さの秘訣を教えて欲しいと言われまして。それで日々鍛錬と伝えたのですが、その鍛錬の成果を見せてもらえないかと言われたのです。」
うんうん。
アレカンドロは謙虚だな。
自分はまだまだ英雄なんて呼ばれる柄では無いと言ったんだな‥
それでなぜ頭を掴んでるんだ‥?
ちなみに俺と話している間も別の男の顔を鷲掴みにして持ち上げている。
最初は喜んでいるように見えてたけど、今は動きがない‥
それ死んでない?
「アレカンドロ‥そ、それは大丈夫なのか?」
俺はアレカンドロが掴んでいる男を指差して聞いてみる。
「あ、これですか?大丈夫です。この人これで3度目ですから。凄い人がいるものです!」
アレカンドロが顔を離すと、男はそのまま床に崩れるように落ちた。
すると操り人形のように、すぐにその場に立ち上がりアレカンドロに頭を下げる。
「アレカンドロ様!ご褒美ありがとうございました!アレカンドロ様の気が向いた時でいいので、またやっていただけると光栄です!」
なんだこいつは‥?
こ、これが真性の変態というやつなのか‥
しかし今のアレカンドロの力で頭を掴んで失神しないとは、ちょっとおかしいんじゃないだろうか‥
少し覗き見してみよう‥
俺はスキル【技能眼】を使い男を見る。
「あふん!な、なに?新たな快感が!」
ヘントイ
スキル【痛覚耐性】
うむ。
なるほど‥
耐性系のスキルでしかも痛覚耐性か。
アレカンドロの強悪な技に耐えられたのはこれが理由か‥
欲しいスキルではある。
しかし‥
しゃべりたくないのだが‥
近寄りたくないのだが‥
視界に入れたくないのだが‥
地面にしなだれている男を見ると、恍惚の表情でこちらを見ている‥
えっ、どうしよう。
木偶爆弾投げていいのかな‥?
き、気持ち悪いけど、爆弾投げる前にとにかく話しかけてみよう‥
「あ、あんたさ‥顔面ミシミシ言ってたけど平気なのか?」
「え?もちろんです!あれは英雄であり、女神であるアレカンドロさんの美しい手で掴んでいただいているのです!それだけでありがたい‥本音としては私が持っているスキル【痛覚耐性】がなければもっと直接感じられたのではないかと残念でなりません!」
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。スキル【痛覚耐性】を模倣しました』
や、やったぁ‥‥
でもこのスキル使ったら変態になったりしないよな‥
あとスキルなのにねばねばしてそうで何かやだなぁ‥
「う〜ん、さっきの奇妙な感覚も捨て難いが、やはり私はアレカンドロ様の手の感触が忘れられないです!」
「おお!そうか!お主は泣き言も言わず、とても前向きだ!もしかしたら自分の訓練にもついてこれるかもしれぬな!自分はもうしばらくしたらここを離れるが、訓練したくなれば自分を訪ねるがいい!」
や、やめとけアレカンドロ‥
それは違う人種だぞ‥
おそらくだが違う世界の人だ。
おそらくアレカンドロの見た目がいいから、そんな人に虐められたい人だよ‥
「あ、ありがとうございますアレカンドロ様!必ずや、伯爵家の爵位を弟に譲り渡して、貴方様の元に向かいます!」
あ、これ変態エルフと同類だ‥
多分そのうちどこからともなく現れそうな気がする‥
「そうかそうか!ならば強くなるためにもっと耐えるのだ!」
「はい!アレカンドロ様!」
うんうん。
これは関わらないほうがいいやつだ。
俺はそっとアレカンドロたちから離れることを選び、その場を後にした‥
俺たちを英雄ともてはやして始まった祝勝会だったが、今はこの国の今後について各貴族で話し合いをしているようだった。
俺たちへの興味は若い貴族の息子や娘たちが持っている程度で、割と自由に飲み食いできるようになってきた。
ちなみにアキーエは女子にしか囲まれていない。
狙い通りだ。
時々話しかけてくる人たちを適当にあしらい飲み食いしていると、ある一角にいる人たちが目に入った。
ミミウと王様が仲良く隣に座ってご飯を食べている‥
おろ?
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