第829話
夜風に当たるために建物の外に出る。
魔道具作りで少し張り切り過ぎたようだ。
魔力の消費を許容範囲内に収めるために、あれやこれや削りながらも最大火力を放てるように頑張ったからな。
これで何があってもイェルンさんに敵を近寄らせる事はないだろう。
まあ付近の地形は変わってしまうかもしれないけど。
服が少し湿っぽい。
じんわりと汗をかいているようだ。
熱を持った身体に当たる夜風が気持ちいい。
「マルコイよ。」
声をかけられた方を振り向くと、王様がこちらに歩いてくるところだった。
「王様。どうされました?」
「いや、貴公と話がしたくてな。」
「いいですよ。ただヨエクを倒した後の王様の戴冠式の時でも良さそうですけどね。」
「はは。貴公と話していると私が王に戻るのが当たり前のように思えるな。」
「当たり前ですよ。王様が存命である限り、トールルズの国王は王様だと思ってます。ヨエクでは務まりませんし、それにすぐ退位しますよ。こっちには火力おばけの爆殺女神がいますから。」
あ、あと腹ペコ大魔王とか模擬戦おばけとかアサシン商人とか最凶の刀馬鹿とかいます。
多分1人でもいたら国を滅ぼす勢いの歩く災害です。
「正直私は王を退位して冒険者に戻りたいと思っておった事もあってな。それくらい冒険者として生きていた時が眩しく素晴らしいものだった。命の危険もあったがそれでも思いが変わらぬほどであった。」
そういえば王様は冒険者ランクAだったな。
並大抵でなれるランクではないから、冒険者として長く活動していたのだろう。
「私に後継者がいればすぐにでも王位を譲ったのかもしれぬな。ヨエクも王家の血を引く者であったからそれもよかったのかもしれぬ。」
ヨエクも侯爵だったな。
だとしたら王家の血を引いていたとしてもおかしくないか。
「だが、今この国は滅びに差し掛かっている。私がヨエクの前に行き、正式に王位を渡せばいいとも思ったが、そうではなかったようだ。」
そうだな‥
多分ヨエクが今抱えている問題を解決したとしても善王になるとは思えない。
おそらくトールルズを戦火に巻き込む形になるだろう。
そのための準備をしているようだしな。
「私はこの国のために王位に戻りたい。国民の、皆の平穏な生活のためにな。そのためにマルコイ‥改めて貴公に助力を頼む。このトールルズの王ゼルギウス・ミウリンドに力を貸してくれ。」
「‥‥承りました。このマルコイ、微力ながら御身の剣となり敵を討ち滅ぼしましょう!」
ギルドの面々や料理屋のおじさん、イェルンさんや王様のために俺はヨエクを討伐する事を誓おう。
「明日にはトールルズの王はゼルギウス王に戻ってますよ。」
「ふふ、頼もしいな。宜しく頼む。」
「はい。」
「マルコイよ。ありがとう。これだけ伝えたくてな。それでは明日頼んだぞ。」
王様はそのままギルドに戻って行った。
ヨエクにも自分が放った刺客が倒された事が伝わっているだろう。
明日は総力戦になる。
味方も頼もしいが、俺も魔力を回復させるために身体を休めるとしよう。
しかし‥
王様の名前って初めて聞いたな‥
次の日の朝。
ギルドのフロアに行くとみんなが集まっていた。
「すまないな。遅くなったか?」
「皆んな待ちきれなくて早起きしたみたい。もう皆んな準備は大丈夫よ。」
「わかった。それじゃあヨエクの所に乗り込むぞ。」
俺はパーティメンバーに声をかける。
「マルコイよ。」
「王様。どうされました?」
「すまない。私のわがままだとはわかっているが、私も連れて行ってもらえないだろうか?」
「‥‥‥危険ですよ。」
「わかっている。しかしヨエクともう一度だけ話がしたいのだ。もうヨエクが許されることはないし、許してはいけないと思っている。だが彼奴の想いを聞いておきたいのだ‥」
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