第628話

あやめの攻撃は先程とさほど変わりなく、連続の刺突だった。


それはさっき通じないとわかったはずだが‥?


アシュラ君の動きを封じている間にまた正人が大ぶりの攻撃を放つつもりなんだろう。


そう思い正人の方を見る。


すると正人は少し離れたところで魔力を練り上げていた。


あ!

ずるい!

剣での模擬戦なのに魔法使うなんてずるいぞっ!


「光よ!我が敵を穿つ柱となれ!『天翔ける光砲!』」


や、やばい!


‥‥‥と思わせといて‥


「ノギス背中を向けろ!」


ノギスは俺の声に素直に反応して、魔法に対して背中を向けた。


攻撃に対して背中を向けるって結構勇気いるよね。

素直って素晴らしい。


正人の魔法は背中を向けたノギスに直撃する。


轟音と煙を巻き上げたが、その煙が消えた時無傷のノギスが立っていた。


「な、なにそれ!魔法も効かないっての!?」


ふふふ。

そんなの対策してるに決まっているじゃないか。


腕の付け根となっている部分には、魔法耐性をありったけ強化してある。


アシュラ君の腕も魔法耐性をつけてはいるが、少しばかり心配だったので後ろを向いてもらったけど‥



しかしヤバいな。

このアシュラ君は装着者を一気に高みに押し上げてくれる魔道具になってしまったようだ。


ふはははは!


「降参‥参ったわ。あたし達4人で戦えばなんとかなるのかもしれないけど、2人じゃ敵わないわ。悔しいけど諦める。ものすっごく悔しいけど‥」


ふむふむ。

そうだろう。

素晴らしきはアシュラ君だな。


もしかして『ガルベスト』に渡した『脚がいっぱい速いぞ君』と一緒に装着したら、これだけで魔王軍に突っ込めるんじゃないだろうか‥?


我ながら恐ろしい物を作ったものだ。


「ふぉー!凄い、凄すぎる!これなら僕も魔法を使いながら近接戦も行えるというもの!こんな素晴らしい物を持っているとはマルコイさんは神か!」


嬉しいが神扱いはやめなさい。

嫌な予感しかしないから‥


「兄貴!これマジで凄いっす!これなら誰が相手でも勝てそうっすよ!」


いや、誰が相手もはやめなさい。

今日はとんでもない人たちが見てるんだから‥


「へぇ。それ凄いわね。どれくらい強いのか、ミミウ試してみたら?」


「面白そうですぅ!ミミウもやってみたいですぅ!」


ほら。

爆殺女神が興味を持って、要塞天使が出陣したじゃないか‥


「ミミウの姉御っすか!ふふん。いくら姉御でもこの兄貴の魔道具を装着した俺に敵うっすかね?」


おお!

ノギスが自信を取り戻した。

やめとけばいいのに‥


「それじゃあミミウの姉御、準備はいいっすか?行きますよー!」


ノギスが勢いよく駆け出した。


完全に防御はアシュラ君任せのようだ。


だが、もしかしたらアシュラ君を装備した事でノギスがミミウと対等に戦うことができるかもしれない。


ノギスよ!

今こそアシュラ君の強さを!素晴らしさを見せ‥


「ノームさん。力を貸してくださいですぅ!『重撃手装』」


ミミウが精霊に囁くと、ミミウの腕に土が集まっていく。


そしてものの数秒でサイクロプスもびっくりの大きな腕となる。


あれなに‥?

腕だけで、地竜くらいのサイズなんだけど‥


「え、ちょ、ちょっと‥」


何か言いかけたノギスを大きな腕が横薙ぎに払う。


アシュラ君は必死に防御しようとしたが、木がへしゃげる音と共に粉々に砕けたアシュラ君はノギスと一緒に吹っ飛んでいった。


「うそーん!」


そんな台詞と共に弧を描いて飛んでいくノギス‥


「わーい!勝ったですぅ!」



‥‥‥‥!?


予想外過ぎて言葉が出ない‥




何ですかそれ?



少しくらい善戦出来たらいいなとかちょっとだけ、ほんのちょっとだけ思ってましたよ。


「ふふん。わたしもミミウも強くなってるって言ったじゃない。」


いや、それは聞いてはいたけどこれは規格外過ぎないか‥?


俺は地面に落ちてどこまでも転がっているノギスを見ながらそう思ってしまった‥

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