第589話

そのまま通り過ぎようとした時に、ちょうど待っていた人が来たようだ。


「あっ!こっちに来たわ!」


「やっぱりカッコいいわぁ。」


ん?

かっこいいね‥

高名な冒険者でも来てるのかな?


集まっている人の方を見ると女性の1人と目が合った。


ふふん。

俺もイケメンだろう。


女性はふいっと顔を背け、他の女性たちと同じ方に向かって行った。


ふ、ふふん‥


すると肩をぽんぽんと叩かれた。


振り向くと卓が頷きながら肩を叩いていた。


「がふっ!」


「卓ーーー!」


そ、そこまでして同情せんでいいわい‥



地面に崩れ落ちた卓を見ていると、一度離れた女性たちの声が徐々にまた近づいてきた。


こっちに歩いて来てるのかな?


別に全然関心はないし、俺は自分の事をまあまあのイケメンと思っているから、女性の声が上がっているやつがどんなやつなのか全く興味なんてない。


ちょっと見てみたいだけだ。


女性が囲んでいる中から1人の男が出てきた。


その男は短髪を無理やり後ろに撫でつけており、鋭い目付きで頬から顎先に傷跡がある。


えっと‥


間違いじゃなければ‥


あれノギスじゃない?


頬の傷はなかったけど、目付き悪いのはそのままだし猫背の感じも同じなんだけど‥


「ちっ!どけよ。俺は忙しいんだ。」


「いや〜ん、やっぱりワイルドだわ!」


うん。

声もノギスだ。

いいように言えばワイルドだけど、はっきり言って見た目チンピラなんだけど‥


ここにいる時はナーシス好き好きで、アレカンドロに負けて落ち込んでるようなやつだったのに‥


何故そんな風になってしまったんだ?

お母さんは悲しいぞ。


まあとりあえずあまり関わりたくないので、こっそりと‥


「ちょ!どけっ!あ、兄貴?兄貴じゃないっすか!?」


やべ!

見つかった!


好奇心に負けて、要らぬ物に関わってしまった‥


「よ、よう。久しぶりだなノギス。」


「あ、あ、兄貴ー!本物の兄貴だ!いつ帰ってきたんすか?あんまり遅いから、俺も何度ロンギルに行こうかと思ったんすよ!」


ノギスの尻尾が全力で振られている。


こいつ確か狼族だったはずだけど、実は犬族なんじゃないだろうか‥


「ついさっき戻ってきたばかりだよ。帰ってきてすぐに王城に呼ばれたからさ。今から家に戻るところだ。」


「そうなんすね!後で家に伺ってもいいっすか!」


「お、おう。でもお前忙しいんじゃなかったのか?」


「今からギルドに行くつもりだったんすけど、顔出したらすぐに帰ります!」


「そ、そうか。」


周りの女の人の視線が痛いんですけど‥


「ところでノギス。パーティメンバーはどうしたんだ?」


「あ、あいつらは先にギルドに行ってます。俺と一緒に行動すると、目立つそうで。あとは視線が痛いとかよくわからん事を言ってました。」


よくわかるよ。

今現在刺さってるからね、視線が。


「兄貴!すぐに行って終わらせてくるんで、家でまってて下さい!絶対っすよ!」


そう言ってノギスは周りの女性を置いてギルドの方に走って行った。


ほとんどの女性はついていったが、数名はこの場に残っている。


「すみません!ノギス様とどんな関係なんですか?」


そのうちの1人に話かけられた。


どんな関係‥?


「えっと‥闘技会で対戦してボコボコにした仲‥?」


「はぁ?ワイバーンを1人で倒せるノギス様があなたみたいな眠そうな顔した人に負けるはずないじゃない!嘘にしても酷い嘘ね。ノギス様に兄と慕われてるからって調子にのるんじゃないわよ!」


え〜‥


女性たちは俺を罵った後、ギルド方向に向かって歩いて行った。


「すごいわね‥芸能人の追っかけもびっくりくらいの熱量だわ。この世界にもあんな人達がいるのね‥」


あやめが後ろでぶつぶつ言っている。



大まかな流れはわかった。

近隣か若しくはロッタスの上空にワイバーンが現れたのだろう。

それをノギスがどうやってかわからないけど倒した。


しかし‥

ノ、ノギスめ‥


お、おぼえとけよ‥

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る