第559話

「うぃーっす!」


「はい、正人君!」


「俺はこっちの世界で生きていこうと思ってるよ。多分卓も同じだと思ってるし。今は記憶なくしてるけど、異世界に来るの夢見てたしな。出だしは失敗だったけど、今の環境なら喜ぶっしょ。」


そう言って正人は卓を見る。


「僕は‥まだ記憶を思い出せてないから何も言えない。でもこんなにワクワクしてるのは多分記憶を無くす前から来てみたい世界だったんだと思う。だから僕は正人君と一緒にここに残りたいと思うよ。」


俺を真っ直ぐに見つめず、真横を向きながらそう告げる卓。


人と話す時は相手の目を見て話すようにと習わなかったか?


「わかった。あと卓君も話す時は挙手するように!」


「わ、わかりまし‥がふっ」


床に倒れ込む卓。


何故かリルが卓の元に行き、頭をヨシヨシしている。


うん。

仲がいいのはいい事だ。


「シャーッ!」


リルは俺と仲良くする気はないのかね?


「でもお前たちも元の世界に家族がいるだろう?もう会えなくなってもいいのか?」


「ああ。俺は元々孤児院出身だし、卓は親の期待が大きすぎて、揉めた後は家では空気のように扱われてたんよ。お互い元の世界に未練なんてないから、こっちの世界で刺激のある人生送った方が楽しそうじゃん。」


そんなもんなのかね‥


まあこいつらがいいなら、別に俺は帰れとは言わないし。

後々後悔するとしても、人に選択を迫られて決めた事よりも、自分で決めた事で後悔する方がいいだろ。


「わかった。それじゃあこれからは魔王退治を頑張ってくれ。俺も全力でサポートするからさ。ただ、魔王を倒せるのは勇者たちだから、俺たちパーティは露払いだったり、お前たちの後方支援になるからな。」


「任せてくれって。ちゃんと張り切って魔王と戦うから、ライリーちゃんに俺の勇姿を伝えてくれると気合いマシマシになるって感じ。」


ライリーには伝えておこう。

正人と言う変態がアピールしてるってことは。


「それじゃあこれからの事なんだけど、魔族の大陸にこの人数で攻め込むってのも無理な話だから、一旦獣人国に戻ろうと思ってるけどいいかな?」


「いいわよ。しばらく戻ってないから獣王様も心配してると思うしね。わたしも会いたい人もいるし。」


「はいアキーエさん!挙手は?」


「挙手するですぅ!」


「あ、はいはい。はい!わたしは賛成です!」


「はいです!」


「はいミミウさん。」


「ミミウも賛成ですぅ!また市場で美味しいもの食べたいですぅ!」


うん。

ミミウさんはいつでも美味しい物食べてると思うんだ。


「はいっ!」


「はいアレカンドロさん。」


「はい、自分はまたイザベラさんに模擬戦してもらいたいと思います。ここで少しは強くなれた自分がどこまで通じるか試したいですっ!」


そうだったね。

アレカンドロはイザベラさんにボコボコにされてたっけ。

でも今のアレカンドロならいいとこいけるんじゃないかな?

スキル使ったら‥

いや、イザベラさんの事だ。

まだ隠してる事とかありそうだからな。


「リルは‥」


「リルさん、挙手をお願いします。」


「シャーッ!」


うっ‥リルさんや威嚇しながら手をあげるのはやめてもらえませんか‥


「リルはアキーエと一緒いる。みんなについてく‥リルうれしい。」


そっかそっか。


キリーエは‥


「えっと獣人国は食堂は出してたけど、食べ歩きの店はなかったからそっちに力入れるとして、他はチーズやね。獣人はチーズとか食いつきよさそうやし‥」


うん。

聞くまでもなかった。


「それじゃあみんなで獣人国に行くとするか。あとセイルズを離れる前に少し仕事があるから、何か用事があるやつは済ませといてね。」


俺もペイセルさんに賞品を作って渡しときたいからな。


多分渡さないと追っかけてきそうだし‥


『影法師』は一体作るのに少し時間がかかるから、今日からでもとりかかるとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る