第516話
ピザパーティーの翌日。
俺は痛む腕をさすりながら、アキーエに声をかける。
ピザを作り過ぎて腕が痛い。
キリーエにポーションでももらおうかな。
「アキーエ。俺は今からこの人形に意識を移す。その間は俺の肉体は無防備になるから、この部屋には誰も入れないでくれ。あと意識を移した状態だと、食事なんかは取らなくて大丈夫だし、排泄もないからそのまま寝かせといてくれ。」
「わかったわ。もし何かあってもわたしがしておくから大丈夫よ。」
本当に何もないと思うから確認しなくていいからね‥
「あとミミウとアレカンドロにお願いがあるんだけど。」
俺は2人を呼んでお願い事の詳細を話す。
「出来るだけ必要ないようにするつもりだけど、念のためだ。」
「わかったですぅ!」
「承知いたしました!自分とミミウ殿に任せておいてください!」
うむ。
頼もしい。
「アキーエはリルが国を移動出来るように、冒険者ギルドでリルの冒険者登録をしておいてくれ。ギルドカードがあったほうが移動が楽に出来るだろ。」
「そうね、わかったわ。」
「キシャーッ!」
リルよ。
威嚇は肯定ととっていいのか‥?
「よし。それじゃあ意識を移すよ。」
俺はベッドに横になった状態で、座っている木偶人形『影法師』の頭を触る。
そしてスキル【アバター】を使用する。
目線が変わる。
身体の動きがぎこちない。
まあ木造人形になったのだからな。
これでもスライムに変わった時に比べれば、かなりマシかな。
スライムの時は身体の動かし方からわからなかったからな。
「よし、動きも問題ないみたいだ。それじゃあ行ってくるよ。そんなに長くはかからないと思うけど、また留守を頼む。」
「任せといて。気をつけてね。」
「マルコイさんが帰って来たら、モッツァレラチーズのピザで、またピザパーティしよか。今度は生地もドライイーストでふっくらするから、より一層美味しいピザを食べられるよ。」
さすがキリーエ。
なんとしても帰らないといけない気になるよね。
しかしもうチーズやらの生産の目処をつけたんだな。
相変わらず仕事早いですね‥
勇者の食べたい物とかすぐに準備できそうな気がする。
よかったな、正人たち。
誰よりも心強い人がここにいるぞ。
「ああ楽しみにしてるよ。」
俺はみんなに見送られ、セイルズの船着場に行く。
まだ勇者たちは来てないみたいだな。
しばらく待つと、船着場がざわつき始める。
おいでなすったようだな。
セイルズに神聖国の騎士が来ているの自体異様な光景なのに、その騎士が山程魔道具を持っているんだ。
みんなが訝しがるのも当然だ。
あやめと正人もいる。
俺は2人に向けて声をかける。
「あんたら随分と重そうな荷物を持っているな。よかったら荷物持ちに俺を雇わないか?」
「いらんいらん。お前のような素性もわからんような奴を連れていくわけにはいかん。」
「素性もわからないって言われるけど、俺は神聖国に改宗するために今から船に乗るところなんだぜ。」
「ほほう!改宗希望者か。それは大変いいことだ。しかしこれは聖王様に献上する貴重な品だしな‥」
「これだけの荷物を持っていたら、あたしと正人だけじゃ道中何かあったら対応できませんよ。改宗希望者ですし、ここは荷物持ちに雇った方がいいんじゃないんですか?」
あやめいいぞ。
「そっすよ!マル‥この人雇っちゃえばいいじゃん!」
正人‥
お前は喋らなくていいぞ。
ボロが出そうだ。
「それに雇ってもらっていただいた金は、女神ウルスエート様に寄進させていただこうと思ってるんだぜ。」
「ふむ。それは献身的だな。勇者様もこう言ってあるし、雇うとするか。」
「本当か!よかった!1人で神聖国に入るのが不安だったんだ!神聖国の騎士様と一緒なら胸張って入れるぜ!」
よし。
潜り込み成功だ。
正人を見ると、また親指を上に上げている。
そして口パクで『ぐっじょぶ』と言っている。
正人があやめに殴られるのもわかる気がする‥
親指逆に曲げてやろうかな‥
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