第498話

正人たちが大きな扉の前に着いた。


「なんだかスッゲー扉だなぁ。これって俺らで開かないっぽくね?」


「ちょっと退いて正人。扉に文字が書いてあるわ。この世界の文字みたいだけど‥」


「『この部屋に入る者。己以外信じる事ならず。』と書いてあるようですな。またおかしな罠でもあるんでしょう。問題ありませぬ。このまま進みましょうぞ。」


神聖国の騎士がそう言って扉に手をかける。

汚い手で触るなよ。


「むむ!こ、これは!ぬがーっ!」


神聖国の騎士が顔を真っ赤にして扉を開けている。

どれだけ頑張ってもお前じゃ開かないぞ。


「ひゅーひゅー‥こ、この扉はとても1人では開かないようですな。申し訳ありませぬが、勇者様もお手伝いをお願いできますか。」


そう言われて、正人が扉に触る。

すると扉に魔力回路が走る。

まるで幾何学模様のように、魔力回路が扉の上を這っていく。


ふふふ。

カッコいいだろう。

その魔力回路は光属性を持つ勇者たちが触った時に反応して扉を開けるようにしてある。


はっきり言ってしまうと魔力回路の無駄遣いだ。

実際はこの魔力回路の十分の一で済むのだが、それだとなんだか寂しいから、無駄に魔力が流れるような回路にしてみた。


これだけでどれだけの金貨がいる事やら。

キリーエにバレたら怒られそうだ。


もちろん勇者たちの中に入ったら魔力回路は剥がさせてもらいますよ。

再利用しますから。


低くて太い音をたてて扉が開く。


勇者たちと神聖国の騎士が中に入ると、扉が獲物を逃さないかの如く勢いよく閉じる。


ふっふっふ。

完璧な演出だ。

俺が中に入るのをわすれている事以外は‥


慌てて俺はスライムの身体を歪ませて、扉の下から中に滑り込む。




中に入ると正人たちがモンスターと対面しているところだった‥



そのモンスターはモンスターと言っていいのか迷うところである。


まるで人型の種族のように、二本足で立っていて人族と同じような顔をしている。


違うのは顔は真っ白く、目には青い菱形の模様が入っている。

そして顔の中央には真っ赤な丸い鼻がついていた。


そして人族との1番の違いは‥


背中から2対の腕が生えていた。


合計6本の腕を揺らしながら、そのモンスターは正人たちを眺めている。


「なんだ?また変わった格好のモンスターだな!だがお前らの攻撃が取るに足らん事はわかっている!打ち倒して先に進むだけだ!」


そう言って神聖国の騎士が前に進もうとする。


するとモンスターは‥


「ようこそ真実の部屋へ。」


声を発した。



モンスターは知性があるものはいないとされている。

そのためモンスターが文明を築く事はなく、それ故同族モンスター以外でのやりとりはないため言葉を得る事はなかった。


しかし目の前のモンスターは言葉を発した。









その事実に戦慄し、神聖国の騎士は驚愕しながら陣形を組む。


あやめはモンスターが言葉を放つという事、それが異常な事だという認識がないため、何事かわからずにその様子を眺めている。



「こ、言葉を話すモンスターだと?そんなものがいるはずがない!お前はなんだ?知性のある種族なのか!?」


「ようこそ真実の部屋へ。ここでは貴方たちの仲間への想いを確認させてもらう。相手を信じる事ができれば次への道が開かれるだろう。」


「何を言ってるんだ貴様!俺の問いに答えんかっ!」


騎士団の人はモンスター相手に戸惑いを見せている。


そのモンスターはまるで元の世界のピエロのようだった。


でも雰囲気がまるで違う。

楽しい感じではなく、どことなく禍々しい感じがする。


騎士団の人は痺れを切らして、モンスターに斬りかかる。


すると突然モンスターと騎士団の人の間から一枚の壁が迫り上がった。


騎士団の人は驚き、その場で尻餅をついた。




突然現れた壁を見てみると、尻餅をついた騎士団の人が映っている。


鏡?


あやめが訝しがって騎士団の人が映っている鏡を見ていると、けたたましい音を立てて幾つもの壁が迫り上がった!

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