第370話

魔法媒体である左のガントレットで魔法を放ち空中に浮いている自分の身体の動きを修正する。


アキーエはこの移動方法自体はかなり早い段階で思いついていた。

マガーレットやモンスター、ついでにマルコイなんかに向けて魔法を放ち、当たった相手が飛んでいるのを見ている時に自分で地面に放っても飛べるだろうなと思った。


ただ思ったけど実行はしなかった。

その移動手段を必要としていないし、何より着地を考えていない。


地面に向かって放てば地面に当たり爆発した衝撃で宙に浮く事は出来る。

たが降りる時に空中で魔法を爆発させても向きを変えるのが精々だ。


今回は落ちるギリギリに魔法を放って何とかするつもりだが、そんな賭け事みたいな真似はしたくないのが本音だ。


だが今回はそんな事を言ってられない。

多頭竜を倒すためにはこの方法しかないと思う。

心臓近くに魔気を流しても倒せるかもしれないけど、気を練りながらあの高さに一定時間居続けることは無理だと思う。


右のガントレットに異常なまでの魔力を込める。

ガントレットには魔力を溜めて衝撃で爆発させる事ができる。


その溜れる魔力に上限はない。

なぜ普段溜めないかというと‥


放った衝撃で自分の腕まで傷つけてしまうからだ。


それでも構わず右手にありったけの魔力を込める。


ガントレットが眩いばかりに真っ赤に輝いている。


多頭竜の顔前まできた。


この技で倒せるのは頭1つかもしれない。

それでも大きなダメージを与えて地面に出来るだけ顔を近づけてさせる!


万が一わたしが倒せなくても仲間がいるから大丈夫。

多分マルコイが鼻歌でも歌いながら残りの首を刈ってくれるはずだわ。


わたしができる事は思いっきりこの拳を叩き込む事だ!


「どっせい!」


多頭竜を地面に叩きつけるために斜め上から技を放つ!


「烈火爆殺拳!」


辺り一面が赤い光の奔流にのまれる。


そして爆音が鳴り響く。




光と煙が無くなった後には上半身が炭化して動きを止めた多頭竜が残っていた。







おいおい。


何て技使ってるんだアキーエは。


俺は『スペース』からポーションを取り出して、落ちてくるアキーエの元に向かう。


「どいてどいて!」


アキーエが着地のために地面に魔法を放つ。


俺は魔法の余波に巻き込まれて軽く飛ばされた‥

受け止めようと思ったのに‥


地面に降り立ったアキーエの右手からはかなりの出血があった。


すぐにポーションを振りかけて傷を癒す。


「ありがとう。」


「あんまり無茶するなよ。俺もいるんだから。」


「わたしが倒したかったの。無理かもって思ったけど何とか倒せたみたいね。」


「何とかどころじゃないぞ。あのデカいドラゴンの上半身が真っ黒焦げだ。しかも最初の攻撃を弾かれてたから火属性に耐性があったんじゃないのか?」


最初の爆殺拳では傷をつけられなかったような気がする。

多分多頭竜の耐性を上回る威力の攻撃をしたって事だよな。


「だから耐えられないくらいの攻撃をしてやろうと思って。」


いや、思ってじゃないって。


自分の腕を傷つけてまでやらなくても‥


「わたしが試してみたいと思ってやった事だからいいの。それにあんなに張り切ってるアレカンドロに負けられないじゃない!」


い、いや勝ち負けの問題じゃないと思うんだが‥


「そ、そんなに張り合わなくてもいいんじゃないか?」


「べ、別に張り合ってるわけじゃないわ!ただ、わたしが正妻だって‥もう!別にいいじゃない!」


アキーエのツッコミが頭に当たる。

ガントレットをつけたままの右手でだ。

アキーエがほとんど魔力を使い切っていたからなのか、ガントレットには僅かな魔力しか籠っていなかった。


結果マルコイの頭でボフッという乾いた音がして、アフロマルコイが出来上がるのだった。


なんでじゃい!


しかしそれはそうアキーエはようやく自分の技を爆殺拳と認識してくれたようだな!


さすが爆殺女神!

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