第354話

「さてさてどうなった?」


「どうにもこうにもないわよ!最初にあばばばなってからそれ以降は変わらないわよ!」


「そうか?ならもう少し出力をあげたら‥」


「もうやめて!あばばばはいや〜!」


そうか。

残念だ。

少し楽しくなってきたところなんだが‥


「どうだ?少しはすっきりしたと言っていたが、何か思い出したか?」


アキーエたちが言うには、リルは昔のことをほとんど覚えていないようだった。

暗殺者として行動していたが、暗殺者をする以前の事は記憶にないようでアキーエが聞いてもわからないと言っていた。


しかし洗脳が少し解けた今なら何かわかるかもしれない。


「ん〜そうね。この屋敷に来た時のことは覚えてるけど、それ以外の記憶なら剣の鍛練の事しか思い出さないわ。何が目的で鍛練していたのかはわからないけど。あと自分が魔族でここにいてはいけないって事もわかってる。」


「そうか‥すまないが君がどんな人であろうと、匿うことはできない。君個人じゃなくて君の種族の問題だけどね。」


「わかってる。戻るつもりだから大丈夫だよ。これまで頭がぼんやりして言われるままにしてたけど、今なら大丈夫!まだ少しぼーっとしてるけどね。」


リルは魔族だがおそらく思考誘導されなかったのだろう。

されたかもしれないがかかりにくかったのか。


しかし剣の腕を買われて強制的に協力するように洗脳されたのかもしれないな。


「マルコイ‥」


「すまないアキーエ。洗脳を少し解く事はできた。後は彼女の自由だ。でもここに残るのであれば俺は彼女の事をポッサムさんに報告して引き渡す事になる。そうなる前にここから出る方が俺たちにとっても彼女にとってもいいはずだ。」


「でも‥」


アキーエは納得のいかない顔をしている。


「アキーエって言ったっけ?あんたいい人だな。私は襲って来た側なんだぞ。それに魔族だ。その優しさだけで嬉しいよ。魔族以外は下等な生物だって言ってる馬鹿どもに見せてやりたい。こんな人族もいるんだぞって。大丈夫。ここまでの道のりもわかるし魔族の大陸への戻り方もわかる。洗脳されてるふりをして戻るから大丈夫さ。それに戻ったら誰も私を知らないようなところで暮らすから問題ないよ。それにこんな怖い家からはさっさと出ていきたいからね。」


リルは笑いながらそう言った。

やっぱりリルは魔族としては異端なんだろう。

でもリルみたいな魔族もいるんだって話のできる魔族もいるんだとわかった。

出来ればリルとは戦いたくない。

そう思うくらいにはなってしまった。


怖い家ってのは俺の作った人形の事だろう。

アキーエを和ますために冗談で言ってるんだろうけど、そんな事を言ってくれるなんて優しいやつだな。


あれ?

そう言えば俺の愛すべき人形たちは見当たらないがどうなったんだ?


「アキーエ。俺の人形はどうなったんだ?」


アキーエにそう聞くとアキーエはある方向をゆば指した。


そこには真っ黒い炭が落ちている。


ま、まさか‥


「も、燃えたのか!?」


「燃えたわよ。リルを追い詰めてたけど、お互いの炎を喰らって燃えました。」


な、なんだと!


こ、こいつのせいか!

もう一回くらいあばばばばが必要なようだな。


そう思い俺はリルを見る。


するとリルはプルプルしながら俺を見返してきていた。


「なるほど‥あれを作ったのはあんただったのか‥私がどれだけ怖い思いをしたのか、あんたには教える必要があるようだ。」


え?

なに?


ここは俺が怒るターンじゃないの?


アキーエを見ると顔を横に振っている。


「マルコイ‥わたしも見ててもやり過ぎだと思ったわ‥」


あれ?

リルは剣を抜きながら泣いている。


「私がどんだけ怖い思いをしたと思ってるんだ!もう泣いたんだからな!怖くて涙が出たんだからな!」


あれ?

なんか和解の雰囲気じゃなかった?


俺は剣を振り回すリルから逃げる羽目になってしまった。


げせぬ‥

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る