第96話

アリアの工房でイレイスに魔道具作製を見せてもらえる事となった。


「魔道具作製の基本は3つね。素体を用意する事。素体に埋め込む魔力を溜めることができる魔力槽となる物を用意する事。一般的には魔石が用いられているわね。あとは魔力回路を素体に書き込む事。それで魔道具は完成するわ。」


魔力回路を書き込む?

他は何となくわかるが、その行為については見当がつかない。


「言葉にすると簡単なんだけどね。この魔力回路の書き込みが【錬金術士】か【魔道具士】しかできないのよ。」


「魔力回路は簡単にいうと何の特性もつけていない魔力を回路を通す事で、指定した属性だったり人体に対する効果を発現させたりする魔力に変える事ができるの。」


異世界の知識でいうところの電気を流して様々な道具を動かすような事なのかな。


「そして火をつけたり、冷風を出したりする回路は魔力の属性を変更するだけで可能なんだけど、人体に効果を出すような回路になると複雑な物になってくるの。体内の魔力と融合させてその魔力をその効果にあった魔力に持っていく必要があるからね。」


イレイスは自分の指にはめている指輪を撫でる。


「だから放出系の魔力回路は【錬金術士】でも作る事ができるけど、身体効果系の物だったり魔力がある物に対して効果を発現できるような回路を作製する事ができるのは【魔道具士】だけって事になるのよ。」


なるほど。

だからアリアも簡単な魔道具なら作れると言ったわけか。

だがスキルの恩恵があっても回路の作製はやはり時間がかかるものなのだろう。


「作製にはどれくらいの時間がかかるもんなんだ?」


「そうね。品物にもよるけど、簡単な物でも数ヶ月。複雑な物になると数年とか数十年なんてのもあるわよ。だって魔力回路は1日の使える魔力を全部使ったとしても数ミリ程度しか作製できないからね。」


そ、それはまた気の長くなる話だな‥


「だから私も移動の時には幾つか作製途中の魔道具を持参して移動するようにしてるわ。今回ロッタスに来るのにも2個程持参してるしね。」


イレイスは懐からペンダントのような物とピアスを取り出した。


「このペンダントはセイウットにある商会の会長から頼まれている物なの。数年前に世代交代をするって決めて受注されたんだけど、身体に入った毒物を無効化するものよ。世代交代する事で毒殺なんかを警戒したんだろうけど、かなり魔力回路が複雑だから恐ろしく時間がかかってるわね。ただその分法外な報酬がもらえるんだけど。」


セイウットの商会か‥

キリーエの実家だったりしないよな‥?


「それじゃ作業を始めてもいいかしら?」


イレイスは少しズレた眼鏡の位置を戻しながら確認してきた。

こうやってると普通に綺麗なお姉さんって感じなんだけどな‥

中身はだいぶ残念な人だからもったいない。

俺に説明しながらもアリアの方をチラチラ見てたし。


「ちょっと聞いてる?」


おっと。

いかんいかんイレイスの残念具合の確認じゃなくてスキルの模倣が目的だった。


「すまない。その前にギルドカードを見せてもらってもいいか?」

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