第94話
その女性はアリアに声をかけるなり、アリアに飛びついた。
しかしアリアがサラリと躱したのでそのまま盛大にコケた。
「も〜アリアちゃんたら恥ずかしがって。」
いろんな物を盛大に倒しながら起き上がる女性はアリアに向かって話しかける。
「イレイスそうやって抱きつくなら泊めないっていったでしょ。」
「ごめんごめん。久しぶりだったから、つい我慢できなくて。」
イレイスと呼ばれた女性がアリアに頭を下げて謝っている。
年齢は俺よりも少し歳上のようで20歳にならないくらいだろうか。
肩くらいの金というよりも黄色がかった髪の毛をふたつに分けて束ねている。
そしてこっちでは珍しいが眼鏡をかけている。
しかし真面目そうな印象ではなく、どちらかというと活発そうな顔をしている。
アリアに満面の笑みを向けていたが、突然此方を振り返り睨みつけてきた。
「んで、こっちの眠そうな顔している男が最近アリアに寄ってきた悪い虫かい?」
おいおい。
悪い虫て‥
「手紙で読んだけど、最近私のアリアと随分と仲良くしてるみたいじゃない?どこの馬の骨かしらないけど、アリアのどこが気に入って近づいてきたんだ?」
今度は馬の骨て‥
イレイスはそのまま睨み殺すほどの勢いで此方を見つめ言葉を続けてくる。
「この子が希少な【錬金術士】だから囲おうって魂胆か?それともこの子の容姿が可愛いからか?この可愛らしいそばかす、愛おしい狐耳、愛くるしい顔立ち‥」
うん。やばい人だったようだ‥
「‥‥‥った腰つき、少女らしい薄い胸‥はぁはぁはぁ‥」
この人犯罪を犯す前に捕まえた方がいいんじゃないだろうか?
そんな事を考えているとイレイスの後頭部をアリアが持っているスリッパではたいた。
なかなかの音である。
「もうこの人はそんなんじゃないって。私の友達のナーシス知ってるでしょ?あの人の命を助けてくれた恩人なんだよ。だから失礼な態度とらないの。」
「でも‥アリアに近づくのが目的でナーシスちゃんを助けたんじゃないの?」
「だから私の事も知らないでナーシスの事助けてくれたの。いくらイレイスでもこれ以上言うんだったら怒るよ。」
するとみるみるイレイスがしょげる。
「わかったわよ。悪かったわね恩人さん。もう言わないわ。仲直りに握手でもしましょう‥」
イレイスは明らかに反省しているようには見えない悪い笑顔をしたまま握手を求めてきた。
何か仕掛けるつもりだとしても握手なら何もできないだろうとたかを括り握手をする。
すると握手をしたと同時にイレイスのはめている指輪が淡く光る。
次の瞬間、イレイスの握力が急に強くなった。
なるほど。【魔道具士】だと言っていたから力を増幅する指輪か何かをはめていたわけだな。
かなり力を増幅しているようだ。
このままだと指の骨が折られかねない。
警告なんだろうが、やましい事もないし、やられっぱなしなのも癪に合わない。
(エンチャント:火)
スキル【エレメントナイト】のエンチャント:火を使い筋力をアップさせる。
思わぬ抵抗を受けたためかイレイスの笑顔が引き攣る。
そのまま2人して笑顔でお互いの手を潰しにかかる。
そして‥
イレイスの頭に再度アリアのスリッパが飛んできた。
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