第73話

アキーエはコボルトと対峙して出方を伺っているようだった。

アキーエに譲渡した模倣スキルは【格闘士】【下肢筋力上昇】の2つだ。

レベルは1とはいえ、いきなり新しく2つのスキルを覚えたのだ、自身の動きに戸惑いがあるに決まっている。

いつでもフォローできるように構える。

おそらく【下肢筋力上昇】でスピードを上げて間合いを測りながら魔法で戦うのだろう。

そして相手が近づいた場合には【格闘士】で対応すのが‥


アキーエがコボルトに向かってダッシュした‥

あれ?


アキーエは猛ダッシュでコボルトに近づくと前蹴りを繰り出した。

見事な前蹴りのつま先がコボルトの腹部に突き刺さる。

ダメージを受けて後ろにたたらを踏むコボルトに対してアキーエは追い討ちをかける。

左右のガントレットを使い、コボルトに連打を浴びせる。

たまらずコボルトが剣を横なぎに払うが、それを華麗にかわして回し蹴りを放った。


コボルトはかろうじて防御したようだが、後ろに尻餅をつく。

そこにアキーエは溜めていた魔力を放つ。


「炎球!」


アキーエの放った魔法はコボルトに着弾し、コボルトは火だるまになる。


「ふぅ。上手くいったわ。」


いやいやいや‥

なんじゃそれ‥

【格闘士】だけであればレベル1だからコボルトと戦える事はできないだろう。

しかし【下肢筋力上昇】があることで蹴りの威力がとんでもなく上がっている。

その事でCランクモンスターのコボルトと渡り合うことが‥

いや、違うから。


「ア、アキーエ?なぜそんな戦い方を‥」


「いやね。どれだけ動けるか試しただけよ。普段は魔法メインで考えてるわ。立ち回りはこれから特訓するけど、今のスキルでどれだけ戦えるか確かめたかっただけ。」


なるほど‥

しかしあの状態で蹴られたら致命傷になるんじゃないか?

これからはアキーエの蹴りには十二分に注意することにしよう‥


「な〜に考えてるのよ。大丈夫、ちゃんと自分の役割はわかってるつもりよ。」


そう言いながらアキーエは俺の身体を軽く叩く。

か、かるくない‥

アキーエにスキルを譲渡した事を、少しだけ後悔しながら帰路に就くのだった。



次の日からはスキルの模倣を再開した。

今日はAランクパーティ『戦神の矛』の拠点に向かっている。

『戦神の矛』には【指揮】と【探索】のスキルを持ったバラックスさんとシクーさんがいる。

2人のスキルは是非模倣したいと思っている。



そして‥

30分後くらいに何故かバラックスさんと対峙していた‥


「俺は言葉で教えるのが下手だからな!こうやって身体を使えって教えるのが1番だ!」


ふむ。

ザッ脳筋め‥



『戦神の矛』の滞在している宿に着いたらバラックスさんしかいなかったので、とりあえず闘技会の件から話をしたらこうなった‥


他のパーティメンバーの模倣もしたいので、できれば他の人の話も聞きたいから宿でしばらく待たせて欲しいなんて言ったのが間違いだった。


「よしっ!それじゃ行くぞー!」


脳筋が突っ込んできた!

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