第33話

マルコイが魔族との戦いを始めた頃。正人達勇者は街道を走っていた。

その行き先は魔の森方面ではなく、ウルスート神聖国の方向だった。


「はぁはぁ‥」

「てか訓練の為に王都に来たのに蜻蛉返りとかありえなくないっすかぁ?」


正人は先頭を走るガーノスに問い掛ける。


「仕方ありません。本来であれば半年程はセイウットで訓練する予定でしたが、ウルスートの近隣にモンスターの群れが現れたとなれば戻るしかありません。」


「しっかしなぁ〜。セイウットでもモンスターの氾濫があったってのにウチでも出るなんて、スッゲー偶然。」


ガーノスは一旦止まって正人の方を振り返る。


「これが正人さんの言うように偶然であれば杞憂にすみます。しかし魔族絡みになると正人さん達に頼むしかなくなるんですよ。特に魔王になると勇者じゃなければ倒せません。」


「ん?どゆこと?」


「魔族は数は少ないですが、魔力や身体能力が他の種族とは段違いに高いのです。それゆえ冒険者ランクで言うと最低でもBランク。高い者でAやSランク相当の者もいるでしょう。その上魔王は別格です。」


「ふえ〜。それって俺らでも無理じゃね?」


「はい。実力的に考えて無理だとは思います。しかし‥勇者には特別な力があると伝えられています。」


ガーノスは正人達の顔を見ながら続ける。


「勇者は‥その仲間達もですが、魔族と相対した時にスキル【勇者】の効果にて能力が数段上がるのです。それこそ訓練を積めば魔王に届くほどの。」


「それがスキル【勇者】。魔族への特殊効果で自分と仲間達の力を底上げするスキルになります。」


「へえ〜、それじゃ魔族が絡んでるかもしれないってなら、ますます早く戻らないといけないっぽいな〜。」


ガーノスと正人が会話をしている後ろで、恵は後悔に染まった表情をして俯いていた。


(ごめんなさい。マルコイさん‥必ず戻るって言っておきながら‥)


恵とあやめは宿に戻り状況を正人達に報告した。すぐに応援に行く事で話は纏まっていたが、ガーノスさんからの報告で一変した。

ウルスート神聖国にもモンスターの氾濫が確認されたとの事だった。

数はそれほどでもないが、魔族や最悪魔王までいるようであれば神聖騎士では時間稼ぎ程度しかできない。

そこで急遽神聖国に戻る事となったのだった。

最後まで王都でマルコイ達の応援に行く事を提案していた恵だったが、神聖国が滅亡してしまったら元の世界に戻る事ができなくなると、あやめから言われた事で諦めた。


(無事でいてください‥マルコイさん‥)







「さ〜て、一丁やったりますかっ!」

魔族を前にマルコイたち3人は気合を入れる。


「ん?次の相手はお前達か?肩透かしさせるなよっ!」


魔族の男はそう言うとマルコイに向かって突進してくる。


顔を狙ってきた男の拳は堅牢を易々と壊しマルコイに迫ってきた。盾で逸らそうとするが、膂力に勝る男の力に抗えず後退させられる。

(やばっ。堅牢は全く意味なしかよ。しかも一発で手が痺れた‥盾越しとはいえ何発も受ければ腕が動かなくなる。)


「ん?今何か結界張ってたか?しかしそんなもんじゃ俺は止められんぞ。」


魔族の男は満面の笑みを浮かべる。戦闘狂だな。

ニヤニヤしながらもその場から動こうとしない男に鑑定をかける。


ザックタルト

スキル【身体能力向上Lv.4】【剛腕Lv.3】【属性魔法:闇Lv.2】


トリプルスキルかよっ!

しかも脳筋!獣人族かっての!


「ん?この纏わりつく感じ‥お前何かスキルを使ってるな?まぁ何のスキル使っていようがぶっ殺せば関係ないかぁっ!」


ザックタルトが突っ込んでくる。

その時俺とザックタルトの間にミミウが割り込む。


「ミミウ!堅牢は効果ないと思ってくれ。」

「ミミウが防御、俺が攻撃、アキーエは牽制頼む!」


「はいですぅ!」「わかったわ!」


ザックタルトが振りかぶって拳を打ちつけてくる。ミミウが盾で防ぐが、まともに受けたためか後退させられる。


しかしその隙にマルコイはザックタルトの機動力を奪う為、脚を斬りつける。


「いい連携だ。しかし遅いなぁ。」


ザックタルトは今までより速いスピードでバックステップしマルコイの剣を避ける。

そしてすぐにマルコイに向け再突進する。


「ははー、もらった!」


自分の攻撃が当たると思いニヤけていたザックタルトの顔にアキーエの火球が当たる。


「よしっ!」


ダメージは無さそうだか、視界が塞がれたザックタルトの脚を今度こそマルコイが斬りつける。

しかし岩に剣を叩きつけたような感触を残し、マルコイの剣は弾かれる。


「なっ」


「残念だったなぁ。それくらいじゃ俺には傷つけれんぞ。」


ザックタルトが近距離からミドルキックを放つ。マルコイは盾で受けるものの、衝撃は逃す事が出来ずに吹っ飛ばされる。


「今の魔法はお前か?いいタイミングだったぞ。しかしその程度の魔法だとちょっと熱いくらいだぞ。」


そう言うとザックタルトはアキーエに向かい歩き出す。

ミミウが間に入り、アキーエは魔力を練り始める。


ザックタルトの薙ぎ払いにミミウが盾ごと飛ばされた。その間にアキーエの魔法が完成しザックタルトに襲いかかる。


「爆炎球!」


「これは熱そうだな。喰らったら火傷しそうだ。喰らったらだけどな。」


ザックタルトはその場で向かってきた1メートル程の火球に拳を突き刺す。


すると拳のスピードが出す衝撃波により火球の勢いは大きく削がれ、ザックタルトには対してダメージを与えられない。


「これで終わりか?残念だが、この程度では相手にならんぞ。死んで反省してこい。」


ザックタルトはアキーエに向かい歩みを進める。


先程のザックタルトの攻撃により、吐血して倒れ込むマルコイの目の前を悠々と歩きながら。

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