第50話 第二回イベント本番 その1

 13時丁度。

 開始時刻を迎えたことで、各ギルドはそれぞれイベント専用マップに転移した。


 シュカ達【はぴねすとろんぐ】は、森の中からのスタートだ。


「あっ、始まったね!」

「だね! じゃあ、早速落ちているメダル探そっか!」

「うん! みんな、頑張ろーっ!」


 シュカの言葉に、メンバー全員が「おー!」と気合いの入った掛け声で応える。

 その後、一行は四つのグループに分かれ、離れすぎないよう一定の距離を保ったまま、それぞれ森の中を歩き出した。


 その道中――


「何か嬢ちゃん、いつも以上に気合い入ってんな」


 ガタイのいい20代中盤の男――ガイアが先頭をズイズイと歩くシュカを見ながら、隣に居るナナに声を掛ける。


「あ、うん。今日のイベントの生放送、お父さんが見てるんだって。だから『良いところを見せたい』って、さっきシュカちゃんがみんなに」

「へえ。俺が来る前にそんな話をしてたのか。もっと早くインしとくべきだったな」

「用事があったんでしょ? 仕方ないよ。あっ、あと『優勝してチュートリアルおじさんに褒めてもらいたい』とも言ってたよ。……それとね、天国に居るお母さんに良い報告をしたいって」

「……そうか。なら、何としてでも優勝しねえとな!」

「そだね! ……って、見て! あそこ!」


 ナナはピタリと立ち止まり、木の根元を指差す。

 そこには予選の時に何度も目にした、オルゴール箱のような小さな箱があった。


「おっ、宝箱じゃねーか! おーい、嬢ちゃーん!」


 ガイアが大声で呼ぶと、シュカがとことこと駆け寄ってきた。


「んー? 何ー?」

「シュカちゃん、あそこ見てみて!」

「わぁ、宝箱だー! ナナお姉ちゃんが見つけたの?」

「うん、偶然ね! じゃあ、シュカちゃん、早速開けよっか!」


 シュカは嬉しそうに頷き、置いている宝箱を手に取る。

 そしてゆっくり開けると、DFと刻印された金色のメダルが一枚入っていた。


「やったー! 早速ゲットだー!」

「こいつは幸先いいな!」

「だね! じゃあ約束通り、これはシュカちゃんが持ってて!」

「うん、わかった!」


 シュカがメダルに手を伸ばす。

 触れた瞬間、メダルはスッと消え去り、代わりに各プレイヤーの視界右側に表示されている【ギルド総獲得メダル数】が0から1に増加した。

 アイテム化された証拠だ。


「よし! この調子でじゃんじゃん集めよう!」

「うん、シュカも頑張って見つける!」

「おっ! 期待してるぜ、嬢ちゃん!」

「任せてっ! じゃあ、行こー!」



 ☆



 カイト達のギルド【アグレアーブル】は、ひらけた草原に転移した。


「おっ、始まったな!」

「ですね! じゃあ早速、大型モンスター探しに行きましょうか!」


 この第二回イベントでは、イベント用に特別に用意された大小様々なモンスターが出現する。

 そのうち、大型のモンスターは非常に強力だが、その分倒せれば多くのメダルを獲得できる。


 このことをカイト達は予選の時に理解。

 実際に大型モンスターを三体討伐したことで多くのメダルを獲得し、三回目に行われた予選を一位で通過した。


 その経験に基づき、カイト達は本選でも大型モンスターを集中して討伐することで、効率よくメダルを集めようとしているのだ。


「おう! お前ら! 楽しむのはもちろん、やるからには優勝目指すぞ!」

「「「「おー!」」」」


 カイトの言葉に、エミやリオンを始めとした他のメンバーが気合いの入った掛け声で応える。


「うし、行くか!」



 ☆



 エレナ・ココノ・ミュウのギルド【いちごもんぶらん】は、氷原からのスタートとなった。


「わっ、いきなりワープした!」

「ついに始まったね! あっ! エレナちゃん、あれがカメラ?」


 綺麗なお姉さん――ココノが上空に浮かぶカメラを指差す。


「そだよ! あれがグルグル動き出したら放送で抜かれてるってことだから、一応意識しておいて!」


 先輩配信者からのアドバイスに、後輩二人は真剣な顔で頷いた。


「よし! それじゃ、円陣組もっ!」

「「うんっ!」」


 三人は輪になり、円の中央で手を重ねる。

 直後、エレナはカメラが動いていないのを改めて確認してから口を開いた。


「ミュウちゃん! ココノちゃん! 今日は頑張って爪痕を残すよー! えいっ、えいっ!」


 イベントの生放送を通じて【いちごもんぶらん】に興味も持ってもらい、自分達の配信を見に来てもらう。

 その目的を実現させるべく、エレナは自身と後輩二人を奮い立たせる。


「「「おーっ!」」」


 それに応えたことで、三人の声が重なった。

 その後、三人は落ちている宝箱を求めて歩き始めるのだった。



 ☆



 ルシファー達【ダークフェイス】は、シュカ達とはまた別の鬱蒼うっそうとした森に姿を現した。


「ようやくか。フッ、どれだけこの時を待ち侘びたか」

「はいはい、いつものやつね。じゃ、早速作戦通りに行きますか」

「だな! 今回こそは優勝すんぜ!」

「うむ。我らの闇の力、今こそ解放しようではないか!」

「闇の力、ねえ……。僕とレイリーは正反対の光魔法も上げてる訳だけど」


 先日、デストロイとレイリーはこのイベントのため、スキルポイントの割り振りを一旦リセットした。

 そして光魔法に少しだけポイントを降ることで、回復魔法のヒールを習得した。

 イベント中はアイテムを使用できず、HPを回復させるには魔法を使うか、自然回復を待つかしかないためだ。


 その際、ルシファーは最初こそ『ギルドのコンセプトに反する!』と猛反対したものの、理由を聞いてすんなりと納得した。

 ただ、自分が光魔法を上げるのはどうしても嫌だったようで、ルシファーだけは闇魔法に特化したままだ。


「そ、それとこれとは話が別だ! それに貴様らが使う回復魔法はヒールではない! ダークヒールだ!」

「……へいへい、ダークヒールね。わかったわかった」

「ははは、おめえら相変わらずおもしれーな! ……さて、それじゃ気合いぶち入れていこうぜ!」

「ああ!」

「うん!」



 ☆



 広く開けた砂地。そこに5名の中年男性達が現れた。

 タカシ達のギルド――【オヤジ達の集い】だ。


「おっ、始まったようだね。では、皆の力を合わせて頑張ろう!」

「そうだな。今日参加できなかったエイジパパとマサオ君のためにも!」

「せやな! まあ、ゆーても僕らにはタカシ君が居るから安泰あんたいやろ!」

「確かに! 何たって、第一回イベントの優勝者だしな!」

「えっ? いやいや、辞めてくれよ! あれは偶然だったんだから!」


 四人から視線を注がれたタカシは、心底焦った様子でそう言った。

 すると、それからひと呼吸置いて、他のメンバーが一斉に笑い出した。


「冗談やて! まあ、気張りすぎずぼちぼちやろや!」

「……うん、そうだね! よし! いつもの調子で楽しもう!」

「「「「おー!」」」



 ☆



 カイザーのギルド【リバラルティア帝国】は、色とりどりの花が咲き誇る草原からのスタートとなった。

 

「――いよいよ始まりましたね!」

「うん。みんな今日はよろしくね!」

「は、はいっ! カイザー様とご一緒できて光栄です!」

「俺も! 選ばれて超ラッキーだぜ!」

「がっ、がが、頑張りますぅ!」

「みんな! 力を合わせて、何としてでもカイザーさんに優勝を!」

「「「「おー!」」」」


 カイザーを囲みながら、視聴者達が興奮した様子で盛り上がる。

 そんな彼らを見て、カイザーは少し胸が痛んだ。


 普段、カイザーは一緒にゲームを遊ぶ視聴者を抽選で決めている。

 だが、今回のイベントに限っては参加するのに条件をつけ、その上で実力上位の者から選んだ。

 前回のイベントで優勝を逃している以上、今回は是が非でも優勝を勝ち取りたいからだ。


 本来ならいつも通り、全員に参加できる可能性を与えてやりたかった。

 そうできなかったことに、改めて申し訳なさを感じたのだ。


「では、カイザーさん! 早速、大型モンスターを探しに行きましょう!」


 とはいえ、今さら悔やんだところでもう遅い。

 今の自分ができることは、生放送を見て応援してくれている視聴者達に優勝で応えることだ。


 そう考えたカイザーは気持ちを切り替え、気合いを入れた。


「そうだね! じゃあみんな、行こう!」



 ☆



 いくつもの墓が立ち並び、夜のように暗い不気味なエリア。

 そこに【秘匿ひとくの仮面】を付けたプレイヤーが10人現れた。

 ギルド【ナンバーズ】だ。


「……じゃあ、奇数組はあっち。偶数組はこっちということで」

「 ウィッス……」

「……了解っす」


 全く会話が弾むことなく、【ナンバーズ】は早々に二手に別れた。

 これは何もクールぶっている訳ではない。

 彼らにとっての精一杯のコミュニケーションがこれなのだ。



 普段、彼らはそれぞれソロでゲームをプレイしている。

 そんな彼らがギルドを結成するに至ったのは、某匿名掲示板に書かれたある書き込みがきっかけだった。


 その内容は『優勝賞品が欲しいからイベントの間だけギルドを組まないか』というもの。


 今回のイベントは別に一人でも参加することは可能だが、戦闘になった時のことを考えると、さすがに一人では優勝は厳しい。

 そう考えた一人の男が書き込んだところ、同じように考えたプレイヤーが続々手を上げ、やがてその中の実力者達がゲームの中で会うことになった。


 その際、匿名掲示板の住人であることがバレるのは色々と望ましくない。

 顔が知られるなどもってのほかだ。

 知られた暁には匿名なのをいいことに、嬉々として叩かれてしまうことだろう。


 故に彼らは事前に名前を英数字に変更し、【秘匿の仮面】で素顔を隠した上で対面することとなった。


 こうして誕生したのが【ナンバーズ】。

 要はぼっちが賞品欲しさに集った即席ギルドな訳だが、ゲームにかなりの時間をつぎ込んでいる分、個々の実力は相応に高い。


「じゃ、行きましょうか……」


 リーダーであるゼロがそう言うと、ツー・フォー・シックス・エイトの四人が顎を前に突き出すようにして頷く。

 そして彼らは歩き出した。


 第二回イベント、開幕である。

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