いつの間にかチュートリアルおじさんとして人気者になっていた
白水廉
第1話 プロローグ
豆電球の光だけが灯る、六畳一間のボロアパート。
ベッドで横になっていた男がのそりと起き上がる。
「ちっ! くそがっ!」
男は悪態を
彼の名前は
今しがた、VRMMOで本日3回目となるプレイヤーキルをされてご機嫌斜めだ。
「はぁ……。やってらんねえ」
そう吐き捨てると、再びベッドに倒れ込んで天井を見つめた。
(唯一の生きがいだったのに……)
友人なし、彼女なし。
唯一の肉親である両親も数年前にこの世を去ってしまい、まさに孤独の身。
その上、アルバイト先のコンビニでは馴染めないどころか、一回り以上も歳が下の同僚から陰口を叩かれる日々。
そんな人生に生きがいを与えてくれたのが、二年前に実用化されたVRMMOだった。
元からゲーム好きだったことも手伝って、勇は何気なく購入してからというもの、新世代のゲームに寝食を忘れるほどのめり込んだ。
しかし、今ではそれすらもつまらないと感じるようになってしまった。
理由は単純。
俗に言うリア充達が、こぞってゲームを遊ぶようになってしまったからだ。
最近流行りのVRMMOは、現実の姿がゲームの中で再現されるソフトが主流。
現実さながらの仮想空間において、現実そのままの姿で会話ができるということから、今ではコミュニケーションツールとしての役割も
そんな理由から、本来ゲームとは程遠い位置に居たリアルが充実している勝ち組達もVRMMOを始め、やがて彼らがメイン層となった。
すると、どうなるか。
孤独が故にソロプレイを強いられている勇は、当たり前のように狩られる側へと回った。
もちろんゲーム内で他プレイヤーと交流すれば解決する話だが、当然そんなコミュニケーション能力は持ち合わせていない。
プレイしてはキルされ、必死に貯めた経験値やゲーム内通貨が無に
つまらないと感じるのも無理はないだろう。
「はぁ……」
時が経って怒りが
勇はその虚しさを誤魔化すため、ネットニュースサイトでも見ようとスマホを手に取った。
「ん? ……おいおい、マジかよ!」
メールの通知が一件。
そこには『ドリームファンタジー βテスト当選のお知らせ』の文字があった。
ドリームファンタジーは、日本を代表するゲームメーカー二社が手を組んだことでたちまち話題となった新作タイトル。
そのβテストの募集がつい先日行われ、もちろん勇も応募した。
各所で『倍率1万倍は下らない』と予想されていたため、当たる訳がないと思っていたが、奇跡的に当選してしまったようだ。
(でもなぁ……)
テンションが上がったのも束の間。
今のVRMMOは勇にとって、ただストレスが溜まるだけの道具だ。
βテストでゲームの楽しさを知ったところで、正式リリースがなされれば、どうせまた一方的に狩られ続ける。
「あ、もしかして!」
そんな考えから、もうVRMMOは辞めようと思った――その時。
勇はあることを思いついた。
それが可能か、メールの文面に目を通す。
「はぁ……。まあ、やっぱりそうだよな」
勇は
彼はβテストで獲得したレベルやステータスにアイテムなどを、正式版に引き継げるかもしれないと考えたのだ。
そうであれば有利にゲームを始められ、自分が一方的にリア充達を狩ることができる。
だが、そんな思い通りにはいかない。
公平を
「いや、待てよ……?」
一瞬落ち込んだものの、勇は
ゲーム内の数値が引き継げなくても、知識や経験は引き継げる。
βテストで諸々試して、効率のいいレベル上げの方法などを見つけられれば、スタートダッシュで差をつけられる。
しばらく経てば数に圧倒され、再び狩られる側に回るだろうが、数日の間は優位に立てるはずだ。
そう考えた勇は気色の悪い笑みを浮かべた。
(あいつらに俺の気持ちをわからせてやる!)
リリース当日に初心者狩りを行う。
そんな不純極まりない動機から、勇はβ版のダウンロードを開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます