第3話 彼女になって
というわけで、俺が見たのは全て現実であることを確認した。
さすがに自分の目で見たものは信じるしかないからな。
それにしてもクラスメイトが魔法少女ねぇ……。しかもあの望月が。
いつもムスッとして必要以上の事を話さない委員長があんなキャピキャピした少女に……ぶはっ!
やっべ。笑いが止まらん。
あのニワトリは俺が知ってる望月の言動を意外だって言ってたんだよな。いったい普段はどんななんだよ。
ってそれどころじゃない。早く望月の所に戻らないと。
というわけで俺は自分の部屋で手にした鞄に適当な服を詰めると窓から外に出る。それはなぜか。
さすがに望月をパジャマ姿のままで夜道を歩かせる訳には行かないから、俺が着替えを取りに一度自分の家まで帰ってきたからだ。あの山から俺の家までは割りと近かったからな。
「さて、行きますかね。待たせてる魔法少女の元へ」
俺は家の裏から静かに自転車を持ってくると、ゆっくりとペダルを踏み込んだ。
◇◇◇
「ほら着替え。っても適当に羽織れるやつを持ってきただけど」
「ありがとう……」
「臭くは無いはずだ」
「わ、わかってるわよ……」
俺は鞄から少し長めのジャケットを出して望月に投げると、望月は少し躊躇してから袖を通した。
臭く……ないよな?
「じゃあ帰るか。送って行くよ」
「え?」
「え? じゃなくて。さすがにこの時間に女の子を一人で返すわけにはいかないだろ?」
「でも……」
「大丈夫ココ! メイは変身しなくても認識阻害の魔法が使えるココ! だからだれにも気付かれずに帰れるココ! 少年に見つかったのはそれを使って無かったからだココ! メイはちょっと抜けてるココ!」
「「…………」」
そして沈黙
「望月……」
「言わないで」
あい。了解。
それにしてもそんな魔法があるなら送っていく必要ないな。むしろジャケットもいらなかったんじゃ? 家まで行った俺の行動の意味とは? まぁいいけどさ。
「あ〜……じゃあ俺は帰るわ。ほんじゃ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「ん? なーした?」
「ま、まだこの事を秘密にする約束をしてないわ。誰かに言われても困るのよ」
「いや、こんなん話したって誰も信じないだろ。だから誰にも言わねーよ」
実際に見た俺も半信半疑だったしな。それに変な事言ってこれ以上変な目で見られるのも望月に怒られるのも嫌だし。学校の望月、俺だけにやたら怖いし。
「ダ、ダメよ! こういう事はちゃんとしないと信用出来ないわ。特に真鍋くん。貴方は今日だって午後の授業サボっていたじゃない。そんな貴方を信用出来ると思うの? だ、だから帰り道でそのへんをちゃんと決めるのよ!」
「わ、わかったよ……」
おぉう……。俺ってまじで信用無いのな。自業自得だけどさ。
で、結局送っていく事になった。ついでに聞きたかったことも聞いてみるか。
そう思って、俺ジャケットを着て隣を歩く望月を見る。
「あのさ、もし少女じゃなくてそのまま変身してたらどんな感じになってたんだ?」
「……服の感じはあまり変わらないわ。だけど少し露出が増えるだけ。スカートが短かったりとか、胸元とか」
「胸元ねぇ……」
視線を少し望月の胸に向ける。う〜ん、そんなに主張する程大きくはないような? むしろ魔法少女に変身した時の方が大きいような……
「……何か言いたそうね」
「なんでもございません」
「これだから男子は……」
おぉ! 俺的委員長らしいセリフランキング第三位を聞けた! しかも小ぶりな胸を隠しながら! うん。今日はこれで満足。
他にも色々聞きたいことはあったけど、今聞いても頭に入らないだろうし、望月が素直に言うとも思えないしな。
あとはさっき言ってた約束ってやつに適当に返事しとけばいいだろ。そして帰って寝る!
「それで……真鍋くん」
「ん?」
お、きたきた。
「どうすれば内緒にしてもらえるのかしら?」
「……へ? 俺に条件を出すんじゃなくて俺が出すの?」
「それはそうよ。だって秘密を見られたのは私だもの。それにそういう条件を出した、っていう自覚があった方が真鍋くんも意識して誰にも言わなくなるでしょう?」
「いや、そこまでしなくても……」
「ダメよ。私が納得できないわ」
が、頑固だなぁ……。
発光ニワトリが言ってた、今の姿のままでもキャピキャピ話してる姿が想像できないんだけど。
断り続けても同じ事の繰り返しになりそうだし……。さて、どうするか。
めちゃくちゃ簡単な条件だとまた文句を言われそう。かと言っておっぱい触らせて! みたいな高次元な条件だと逆に存在を消されそう。
う〜ん?
「真鍋くん?」
隣から「まだ?」みたいな顔で覗き込んでくる。悔しいけど可愛いんだよな。
まぁ、真逆な俺とは釣り合わないだろ。だからダメ元で言ってみる。
「よし、条件決めたわ。俺の彼女になって」
「へっ?」
望月のやつ、美少女らしからぬ間抜けな顔になってるな。これでよし。
こんな無茶な要求飲まないだろ。むしろ引くはず。それで適度に距離をとってくれればよし。元々そんなに関わりがあったわけじゃないしな。
「え……真鍋くん? か、彼女ってあの彼女?」
「そう。あの彼女。なーんて冗だ──」
「ちょっと待って! ちょっと考えさせて! あ、私の家あと少しだから! ここまで送ってくれてありがと! じゃっ!」
俺の言葉を最後まで聞かずに望月はそう言うと、俺のジャケットを着たままで走り出してしまった。
えぇ……考えるまでもないだろうよ。あとジャケット返せ。
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