第2話 魔法少女は少女じゃないとっ!

「望月……だよな? 今のはなんだ?」


 俺は再度確認の声をかける。

 目の前の望月の格好はモコモコのうさぎ柄のパジャマ。そしてそのモコモコホットパンツから伸びている白く細い脚が、木々の間から射し込む月明かりと何故か全身が発光しているニワトリの光に照らされている。学校ではかけていないメガネ姿も新鮮でなんかエロい。



「…………違うわ。一体何を見たのかもわからないわね」

「そうか。人違いと見間違いか」

「えぇ、残念ながらそうね。じゃあ私はここで」



 明らかに望月な望月はそう言って歩き出す。



「……メイちゃん」



 名前を読んでみる。望月の肩がビクゥ! ってなる。

 しかしそれでも構わず歩いていく。隣に発光ニワトリを従えて。



「ラヴィアスハート・フルシュート」



 技名を言ってみる。今度はビクゥっ! だけでは済まず、肩がカタカタと震えている。あ、こっち向いた。

 おぉ、凄い真っ赤な顔でこっち来たな。



「〜〜〜〜っ!」



 そして何かを言いたげに口をパクパクさせる。金魚かよ。



「うん。近くで見てもやっぱり望月だな」

「な、な、な、なんで真鍋くんがここにいるの!?」

「おっ、やっと認めたか」

「っ!? ……いいえ違うわ。私は双子の姉よ」

「お姉さんでしたか。あ、そうそう! いやぁ〜妹さん今日ね? 黒板消しの煙めっちゃ浴びてましたよ。超ウケた」

「やっぱり笑っていたのね!? ……あ」



 う〜ん。なんだこのポンコツ。

 まぁいいや。自分で望月だって事を認めたなら聞きたい事はたくさんある。さっきのモヤモヤしたやつと変身の事。なんで小学生くらいになっているのかが気になる。とにかく質問だらけだ。



「ところて望月、さっきのはモヤモヤしたのはなんなんだ?」

「…………眠魔みんまよ」

「ラーメンの?」

「それはメンマよ! 眠魔は寝てる人の心を食べるの。そして欠けた心に入り込んで操るのよ。私はそれを退治しているの。それが──使命なの」



 そう言ってキリッとした顔をした後、何故か悲痛な顔をして俯く。

 なるほど。つまり望月はそれを倒す正義の味方って訳か。

 まぁ、納得したふりはしてみても、ぶっちゃけ未だに頭の中は混乱真っ最中なんだけどな。



「で、望月はその為に変身をして戦っている……と?」

「…………そうよ。本当はこんな事やりたくないのだけれど、私にしか出来ないのならばやるしかないでしょう? 委員長として。嫌だけれども」



 委員長は関係ないと思う。うん。



「そうか。それにしても……やりたくもないのにあんな恥ずかしい格好と恥ずかしい技名を言わなきゃならないなんて辛いな……」

「そ、そうね……」



 偉いな。自分だったら絶対嫌だ。断固拒否する。

 だから慰めのつもりでそう言ったのに、望月は何故か目を逸らして気まずそうだ。それに耳も赤い。

 やっぱり相当辛そうだ。

 ──おや? なんか発光ニワトリが首を傾げてるな。どこが首がわからんけど。



「あれれ? おかしいココ! メイはめちゃくちゃノリノリで魔法少女になったココ! クックが声をかけた途端に「えっ! 魔法少女!? やるやるっ! ずっと夢だったのぉ〜! やったぁ〜♪」って言ってたンゴ! それにその喋り方はなんだココ? 初めて聞いたココ! いつもだったら「やんっ! もう恥ずかしぃぃ〜!」ってぶりっ子しながら言ってるはずコ『クックもう黙ってっ!』グホォォォゥ……」



 発光ニワトリの顔は望月の両手に挟まれてしまい、最後まで語る事は出来なかった。

 ……ほとんど話してた様な気もするけど。

 てか、このニワトリの名前クックって言うのか。まんまだな。



「真鍋くん違うの。違うわ真鍋くん、この子が言ったのは全て嘘よ」



 それも嘘だと思うけどな。知らんけど。だけどまぁそこは敢えて信じたフリをして……



「そ、そうか……。えっと……そうだ! なんで変身したら小学生くらいにまで小さくなるんだ?」

「それは……」



 そこで望月の顔が悲痛な表情に変わる。クックも顔を背ける。もしかしてこれは聞いちゃマズかったのか?



「あ、いや、言いにくいことなら──」

「これは呪いなの」

「えっ……」



 ……呪い? 呪いってあの呪い? そんな馬鹿な。



「あの姿にならないと力が出ないのよ……。今のままで戦うとすぐにやられてしまうわ」

「あ、ゴメ──」

「マコ、何を言ってるココ? 今のままでも大丈夫って言ったのにメイが少女になりたいって言ったココ。「ちょっとセクシーな魔法JKも良いけど、やっぱり可愛さ重視よねっ! 鉄板だしっ!」 って言うからクックは頑張ったココ」

「…………望月?」

「……少……は……女………と」

「え?」


 ん? 何? ボソボソ言ってちゃ何もきこえないんだけど。

 あと顔真っ赤だな。首まで赤くなってないか?

 手も握りしめてプルプルと……ってまさか泣いてる?

 と、思ったらどうやら違うようだ。俺が少し心配になって望月の顔を覗こうとすると、顔を上げて俺をキッ! っと睨むとこう言った。



「ま……魔法少女は少女じゃないとだめでしょう!!」



 って。

 うん。余程こだわりがあるんだな。

 そっかそっか。



「な、何よその変に優しい目は!」



 あっはっは。キノセイキノセイ。

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