【未完】世界を救った勇者は、現代の日本で悠々自適な生活を送りたい
キョウキョウ
異世界転移時代
第1話 約束を果たしてもらう
ようやく、待ちに待った日がやって来た。
「使命を果たしてくれて感謝するぞ、勇者よ!」
「無事に終わって良かったです、神様」
目の前に立つ、強烈な存在感を放つ老人に感謝される。ちゃんと役に立てたようで俺は、ホッとしていた。これで、あの時の約束を果たしてくれるだろうから。
異世界に転移してから10年の月日が過ぎていた。目の前の老人に連れてこられて使命を与えられて。それを果たすために掛かった月日が約10年である。
老人は神様だった。漫画や小説によくあるような設定である異世界転移者として、俺は生きてきた。だけど、今日で終わる。色々あった物語もエンディングに突入だ。
長かった。とても長かった。だけど、ようやく終わる。こんなに興奮して期待した気持ちになるのは久しぶりだった。それぐらい、心待ちにしていた。
やっと俺は、自分が生まれた日本に帰れるのだから!
「それでは、お前を異世界から連れてきた時に交わした約束を、いま果たそう」
「お願いします!」
俺は神様と初めて出会った時に、元の世界に戻してくれとお願いをした。神様は、無事に使命を果たしたら元の世界へ戻してやると約束してくれた。
神様に対して、思うことも色々あった。なんで俺なんかを選んだのか。俺以外に、他の誰かじゃダメだったのか。全て終わったら、本当に約束を果たしてくれるのか。
だけど俺は、神様に対して何の文句も言わず信じることにした。
必ず約束が果たされることを信じて、俺は頑張って異世界を救う旅を続けてきた。とても大変だったけれど、何とか無事に与えられた使命を終わらせることが出来たと思う。
引き留めようとする異世界の仲間たちに別れを告げて、日本へ帰る。この異世界に残って、残りの人生を終えるという考えは無かった。
絶対に、生まれた日本へ帰るという意思を曲げなかった。そんな気持があったからこそ、今日まで諦めずに頑張ってこれたのだから。
「この世界を出れば、勇者としての能力は失われる。それは把握しているな?」
「えぇ、分かっています。力が失われても、問題ないです」
神様からチートな能力を与えられて勇者になった俺は、人間を超越した戦闘能力で今まで戦い続けてきた。日本へ帰ったら、この戦闘能力は失われるそうだ。
神様から与えられたチートな力を持ったまま元の世界へ戻ると、世界のバランスが崩れて、世界が崩壊するらしい。当然、人類も全滅する。
どういう仕組なのか分からないけれど、危なそうだからチート能力は返したほうが良いだろう、という判断。異世界に来てから習得した魔法や、鍛えた能力が失われるそうだが仕方ない。
平和な日本では、過剰な戦闘能力なんてものは必要ない。戦闘行為なんてしたら、警察に捕まって法律で裁かれるだろうから。
そもそも、普通の人間しか居ない世界なんだから、勇者の力なんて持て余すだけ。強力過ぎる能力を失って、困ることはないだろう。俺は、普通の人間に戻れることを歓迎していた。
「ただ、世界を救ってくれた君から力を奪い取るだけでは申し訳ない。儂らの世界を救ってくれたお礼として、世界のバランスを崩さない程度に調整してある加護を君に与えてから、向こうの世界に送り出そうじゃないか」
「えーっと……、ありがとうございます?」
バランスを崩さない程度に調整したという、チートな能力を授けてくれるらしい。世界が崩壊する危険も無いというのなら、ありがたく神からの加護を受けておこう。
「それじゃあ、心の準備は良いか?」
「いつでも大丈夫です。お願いします」
ようやくだな。心臓がバクバクして、体が熱くなった。ものすごく興奮してきた。早く戻りたい。いますぐ、あの日本へ。
「ではな、勇者よ」
「ッ!?」
神様が、そう言った瞬間に目の前がピカッと光った。それから、真っ暗になった。俺は、意識を失ったようだ。
***
「うわっ!?」
布団を跳ね除けて、起き上がる。ここは、どこだ?
警戒しながら、辺りを見回す。敵意を感じないので、とりあえず安全だ。
薄暗い部屋だった。本棚と勉強机と子供用のベッドが置かれている一人部屋に俺は居た。久しぶりに見たが、とても見覚えがある景色。
間違いなく、自分の部屋だった。
「戻って、これた……?」
自分の手を確認する。目に見えたのは、小さくてぷにぷにとした子供の手だった。驚いたけれど、すぐに落ち着く。こうなることは、神様から事前に説明を受けていたから。
俺を元の世界へ帰すために少し強引な方法を使うので、時間が巻き戻っているかもしれない、という話は聞いていた。
ただ、1年か2年ぐらいの誤差を予想していたけど。
まさか、30年近く時間が巻き戻って、幼稚園か小学生ぐらいの子供時代まで戻るだなんて予想してなかった。でも、お願いした通り日本へ戻ってこれた。それだけで嬉しい。また、日本で生活することが出来る。
色々と美味しいものが溢れて、娯楽が溢れて、戦いも無く安全に暮らせる日本で。
「ッ! や、やった……!」
また人生をやり直すことになったみたいだが、それでも良い。俺は、現代の日本で普通な生活を送ることが1番だと思っていたから。より長い時間、日本での暮らしを堪能することが出来るだろう。だから、若返っていても問題は無い。
思い切り両手を伸ばして、俺は後ろ向きで倒れた。とても、清々しい気分である。ふかふかの布団で横になった。なんだか懐かしい、我が家の天井が見える。胸の中に喜びがジワッと広がっていった。
俺は、自分の家に帰ってきたんだと実感した。
その日は久し振りに、ぐっすりと眠る事ができた。
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