第25話 初イベント 5
暗い森の中を支給された、ランプで照らしながら歩いていく。
ポケットのチシャは眠っているのか、さっきから起きている気配がない。蓮はずっと黙りで気まずいばかりだ。
何度も会話を試みたけど、拒絶されるのが怖くて、何も言えないままでいる。
中身は年取ったおっさんだから、仲直りの仕方なんて分かんねーよ。友だちとケンカなんてはるか昔のことだ。謝るにしても理由が分かんないまましたって許してくれないだろう。
「はぁ……」
「っ!」
ため息を吐くと、後ろを歩いていた蓮がぶつかってきた。躓いたのかな。
そう思いしばらくじっとしてみるが、蓮が離れる気配はない。
「蓮?」
「っ、な、なんだ」
どこかケガでもしたのかと思い優しく話しかけてみると、なにかに怯えるようにビクッと身体を揺らした。
もしかして怖い、のか?
「あの、さ……もしかしてオバケとか苦手?」
「っ!」
俺の問いに、蓮は一瞬で顔を真っ赤に染める。図星だったのかと内心納得していると、蓮はしゃがんで顔を伏せてしまう。
「こわっ、怖いんじゃない!僕は暗いのが少し苦手なんだ!」
「いや、別に意地はんなくていいし。怖くても別にからかったりしないぞ」
「……本当か?」
とても小さな声で問いかける。その姿が可愛く見えて、つい頭に手を伸ばしてしまう。怖くないように、優しくゆっくり撫でる。
「本当。俺にも怖いものあるし、暗いのが嫌だって別に普通のことだろ」
「……でも、カッコ悪い」
「それぐらいでカッコ悪いなんて思わねーよ。蓮は怖いものあるぐらいが丁度いい」
「なにそれ」
「ほら、蓮はカッコイイ上になんでもできるだろ。弱点あるぐらいが俺は嬉しい」
「……」
素直な言葉を告げると、蓮は少しだけ笑ってくれる。安心したような表情だ。
「ところで……」
「なに?」
「さっきから脅かし役や目印を見てない気がするんだけど……」
「それがどうしたの?」
「…………迷ったかも」
先生たちが肝試し前に言っていた。森の中を歩くから、念の為目印となるライトを各地に置いてあると言っていた。二十メートル先でも分かるほどの光らしく、方向音痴でも光を頼りに進めば絶対に迷わないとも言っていた。
しかし俺たちの周りは今、光は手元のランプのみ。四方を遠くまで見ても光は全く見えない。
「迷ってるね」
「ごめん!ううっ、蓮のことで頭がいっぱいでボーッとしてた……」
「なっ、僕のことで頭いっぱいって」
「どう謝ればいいのか分かんなくて、それでずっと考えてたから……」
「そ、そうなんだ……もう怒ってないから気にしなくていいよ」
「本当!?」
怒ってないという言葉に嬉しくなり、蓮の手をつかんでブンブンと振り回す。でもそれは嫌だったのか、直ぐに振りほどかれてしまった。
「今はそれよりも元の道に戻ることが先!」
「あ、そうだった……ごめん」
「……怒ってないから謝らなくていい」
「う、うん」
「道に戻ることだけど、僕もよく見てなかったから分からない。だから無闇に歩くよりも朝を」
「んにゃー……真琴ー」
起きたチシャはポケットから、顔だけをこちらに向けている。最悪だ……バレてしまった。絶対めっちゃ怒られる。
そんな俺の胸の内を知らないチシャは、蓮を見るといなや人の姿になって、俺の腕に絡みついてくる。
「あのっ、これは!」
「お前、勝手についてきたのか」
「僕は真琴の恋人だからね。離れるなんてできないよ」
「この……」
「蓮ストップ!俺がちゃんと留守番を言いつけられなかったのが悪いんだ!だから手をあげないで!」
「真琴に迷惑をかけるなんて最悪」
怒り心頭の蓮を落ち着かせる手段はないか、頭をフル回転させて考える。
なにか、チシャがここにいる正当性……正当性は……あっ!
「そうだチシャ!あのさ、人がたくさんいる方向とか分かる?」
「匂いでなんとなく分かるよ」
「よしっ!じゃあ案内してもらっていい?俺たち迷っちゃって……帰り道が分からないんだ」
「真琴のお願いなら構わないよ。早く行こ」
「ありがとう!ほら、蓮も行こ」
蓮が怖くないよう手を握って一緒に歩く。真っ暗な森ではぐれたら大変だって気持ちもあるけど、手を握った理由の一番はそれだ。
振りほどかれたらどうしようかと思ったが、握り返してくれたので、心配は一瞬で消えた。
俺の手を握って先頭を歩くチシャには聞こえないよう、蓮にこっそり耳打ちをする。
「チシャのこと黙っててごめん。でも出来れば寮に帰るまで見過ごして欲しい」
「真琴が僕を避けてた理由はあいつのせい?」
「あっ、うん。蓮が知ったら怒られると思って隠してた……」
「そっか」
一言だけ呟いた蓮の顔は穏やかだ。それにホッとしていると、今度は蓮の方から耳打ちをしてくる。
「黙っててあげるからさ、帰ったら二人だけで出かける約束して」
「えっ、別にいいけど……」
「約束だよ。絶対守って、破ったは承知しないから」
「破らない。約束する」
そう宣言すると、蓮は笑顔を向けてくれた。初めて見たその顔に、俺は一瞬だけ心臓を掴まれてしまった。
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