第11話 飛田 爽 2

 授業中も蓮のあの痛いぐらいの圧を受けるのかと思いきや、活動場所が離れたおかげで少し気は楽になった。心の引っかかりはあるが、今は授業に集中しないと。それにホウキに乗れるなんて初めてだからな。集中しないと怪我するかも。


「ストレッチ終わった?」

「終わった!」

「じゃあホウキに跨って飛ぶよ」

「うん!……どうやって?」

「えっ」


 いやだってホウキに乗ったことなんてないし。この世界では普通かもしれないけど、分からないものは仕方ないから正直に言うしかない。


「跨がればいいのか?」

「そう、だけど……本当に乗ったことないの?」

「ない」


 ちらほら乗り方を教えてもらってる人もいるから、乗れないのは変なことではないと思う。けど、なんかマズったかな?

 少し不安になったけど、飛田は人のいい笑みを浮かべてくれる。


「分かった。じゃあ教えるけど、まずはどんな感じなのか分かった方がいいから乗って」

「了解」


 ホウキに跨って飛ぶのを待っていると、飛田は俺の手を掴んで腰に回す。


「危ないから手はここ。ちゃんと捕まっていてね」

「わっ」


 ふわりと身体が宙に浮く。地面から足が離れたと思うと、高度が上がって他の生徒たちが遠くに見える。


「おー!すごい!飛んでる!」

「ははっ、興奮しすぎ。でも俺も楽しくなって来たから、しっかり捕まっておけよ」

「わっ」


 グイッと腕を引っ張られたので、しっかりと飛田に捕まる。それを合図にホウキはぐるっと一回転からの急上昇急降下を繰り返す。まるでジェットコースターのような動きに笑いこみ上げてくる。


「あっははすげー!」

「もっとすごいことしてあげる!」

「うわー!」

「こらー!飛田に真希!お前らなにしてるんだ!」

「やばっ!」

「わっ!」


 アクロバティックな動きをしていると見つかってしまった。やりすぎたのか下で怒っている先生。それに驚いた飛田は手元が狂って真っ逆さま。ギュッと目を瞑って衝撃に耐えようとするが、浮遊感がなくなっても痛みはやってこない。

 エンディングを迎える前に死んでしまたのかと思っていると。


「真琴……だい、じょうぶ?」

「俺はなんとも……えっ、飛田!?」


 声のした方を見ると、飛田は擦り傷まみれで血も出ていて酷い状態。なのに俺は傷一つない。落下したとき飛田が庇ってくれたのだろう、腕が頭や腰に回って抱きかかえられている状態だ。


「だ、大丈夫じゃないよな!?先生!先生呼んでくる!」

「待って……真琴はケガ……ない?」


 腕を掴まれ引き止められれば、飛田から出た言葉は俺を気遣うものだ。申し訳なさに胸がいっぱいになって、泣きそうになる。けどそれは今じゃない。


「ないから!俺のことはいいから自分の心配しろ!」

「そっか……ケガなくてよかった……」

「先生呼んでくるっ……」


 腕から抜け出そうとするが、飛田は弱々しくも力を込めてくる。行くなってことかな。でも早く居場所を伝えないといけないし、俺一人で保健室まで運べる気がしない。


「飛田、後でちゃんと戻るから今は離して」

「ん……」

「飛田」

「真琴!?」


 名前を呼ばれ顔を声がした方を向くと、顔面蒼白の蓮がいた。飛田が離してくれないから助かった。代わりに先生を呼んできてもらおう。


「蓮、悪いんだけど先生呼んできてくれない?」

「真琴ケガしてないよね?」

「うん、俺は大丈夫だから早く先生を……」

「真琴、真琴……」


 何度も名前を呼びながら蓮は空いている手を握ってくる。心配してくれるのは大変ありがたいし嬉しいが、今は早く先生を呼んで飛田の手当てをしてもらいたい。

 そんな俺の思いは届かなかったけど、先生はすぐに来てくれた。

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