第9話 閑話 1
side本郷 蓮
真琴が嫌い。いつも楓ばかりに構っている真琴が嫌い。
家族ではないけど過ごした時間は三人一緒。なのに真琴はいつも楓ばかりでいつも僕を仲間外れにする。いつもいつも僕だけ仲間外れ。だから嫌い。
入学式が終わって教室に行くと、後ろの席は大嫌いな真琴だった。どうせなら優しい楓がよかった。僕の後ろってのが最悪だけど、こればっかりはどうにもならないからしかたない。それにしても、さっきからため息がウザイ。そんなに僕が前にいるのは嫌なのか。
「はぁ……痛っ」
「後ろで何度もため息を吐くな。うっとおしい」
振りむいて軽く叩いてやると、真琴はへらりと笑った。いつもの仏頂面じゃない、久しぶりに向けられた笑顔に少しだけ嬉しくなる。けど、すぐにそんな想いは粉々になった。
「ごめん本郷、もうしないから許してよ」
やっぱり真琴は意地悪だ。僕が一番されたくないことを平気でするんだ。
*
もう真琴に期待するのは止めよう。僕の気持ちは全部蓋をして、関りも最低限だけにしよう。そう決意を新たにしたのに、神様は意地悪で寮の部屋を同室にしてきた。
「最悪……」
呟いて部屋に入ると、荷物はきっちり分断されて置かれていた。箱が少ないのが僕の方だ。夕飯まで荷解きでもしようかな、少ないからすぐ終わるだろうし。
そう思い箱に手をかける。中は服と勉強道具と大切なものが入った小さな箱。これは絶対に真琴にはバレないようちゃんと隠しておこう。
手際よく作業を進めて全て終わったころ一息つく。一時間ほど手を動かしていたのに、真琴はまだ来ない。またシスコンを拗らせて楓を困らせているのか、それともまた迷っているのかな。昔から方向音痴で目的地と真逆の方向によく行ってた。その度に僕も楓も巻き込まれたり探したりして大変だった。
「ふぁ……」
初日ぐらいは探しにいってあげようかと思ったけど眠くなってきた。そんなに疲れてないはずだけど、窓からさす日向が心地よくてたまらない。
抗いがたい眠気に我慢できなくなってきたので、真琴のことは諦めてベッドに倒れる。ふかふかのベッドに沈んでしまえばもう無理だった。
また迷ってるんじゃないかって心配だけど、真琴は僕が迎えに行ってもきっと喜ばないからいいや。もう子どもじゃないから一人でなんとかする……はず……。
心地のいい眠りに落ちて少しばかり、寒さに目を覚ますとすぐそばに真琴がいた。近すぎる距離に気が動転して、思わず手を振り上げてしまうと真琴が目を覚ました。
「痛っ!」
「僕の傍によるなバカ」
「おまっ、急に叩くことないだろ!?そもそもお前が俺の服を掴んだせいで離れられなかったんだぞ!」
「なっ、僕がそんなことするわけないだろ」
「したから。それよりもお前はなんで俺のベッドで寝てるんだ?」
「はぁ?僕がお前のベッド寝るわけ……っ!」
かぁっと顔に熱が集まるのが分かる。うつらうつらとしていたから気づかなかった。最悪だ。またあの嫌な顔をされる。
「こ、これはっ」
ぐっと手を握って言葉を振り絞ると、真琴はいつも楓に見せるのと同じ顔をしていた。
「間違えたっぽいから別にいいよ」
「……」
「腹減ったし食堂行くけど、お前も行くか?」
初めて、拒絶以外の態度を向けてくれた。嬉しくてにやけそうになる顔を必死に堪えて返事をするけど、出てきたのは素直じゃない言葉。
「お前じゃない……」
「そう、だな……蓮」
「えっ……」
指摘したことを素直に受け止めてくれたこともだけど、それ以上に嫌そうな顔をされなかったことに驚いた。僕にはいつもゴミを見る目をしていたのに、今の真琴は普通だ。それが何よりも嬉しい。
「……連れていってやる」
「へ?」
「食堂!真琴はすぐ迷うから……」
「お、おお、ありがとう蓮」
また優しい声で名前を呼んでくれた。。手首を掴んでも払われない、僕を受け入れてくれている。それらが嬉しくてたまらない
こんなことで僕の心はまた再燃してしまう。少し大人になった真琴なら、僕の恋にも少しだけでもチャンスがあるかもしれない。
ねぇ真琴、僕ずっと前から、出会った時から楓ちゃんよりも好きだったんだよ。
『真希楓への好感度【100】真希真琴への好感度【120】』
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