みはるの日常

霧島桜

第1話 はじまり

 今、僕は暗闇の中に居る。すすり泣く声がずっと聞こえる。




(ここはどこだろう。体中痛いなぁ)




― ちょっと大丈…えっ…




(あ、なんか聞こえるけど、僕、何してたんだっけ。)




― わたしを…庇って…ひぐっ…こんなことに…ひぐ…


― なによ…これ…




(思い出してきた…僕は彼女を守ろうとして…)




ー っ…なんとしてでも直して!




― あぁぁ…




(なんで、みんな悲しそうなの?守ってあげたじゃないか。)




ー なんとかしてよ!!




― つ・・・




(なんか眠くなってきたなぁ。)




― もっと…ちゃんと込めて!




― やってますっ…




(…おやすみ)




― いっ…いやぁぁぁぁ




― なんで…なんで…




― もっと早く駆け着ければ…










― ◆ ―






 わたしはずっと謝っている。






― ・・・・・




― …ごめんなさい




― ・・・・・




― …ごめんなさい




― ・・・・・




― …ごめんなさい




― ・・・・・




― …ごめんなさい




― ・・・・・




― …ごめんなさい














― ◆ ―






 わたしは決意した。


















― 私、禁忌を犯します。




 だから―


















― ◆

























― …きて




(ん?)




― …きて…いちゃん




(…なんだろう…誰かの声が聞こえる)




 まどろみの中から透き通った鈴の音のような綺麗な声が僕の耳に気持ち良く届く。ずっと聞いているとなんだか安心してき―




「起きてーお兄ちゃんんんんん!!」




 ゆっさ!!ゆっさ!!ゆっさ!!ゆっさ!!ゆっさ!!




「ふおわああああああああああ!!!!!あっ白い物体。」




 突然、何かに持ち上げられたかと思うと、世界が左右に激しく揺れた。いや、揺れているのは、僕自身だ。




 正確には揺らされている。僕の肩を掴んで、激しく揺さぶられています。




「ちょっ、やめ。止めてえええぇぇぇぇぇぇ―」




 数秒か経って、ようやく解放。




 「うおええぇぇぇ〜…」




 世界が回ってる。頭ぐわんぐわんする。




「これで起きました?お兄ちゃん。」




「…おきた。…なにするの?」




 なんとか落ち着いてきたので、こんな乱暴な起こし方をする不届き者を確かめようと、声のする方向を見たら。目の前に僕と同年代ぐらいの美少女がいた。


 血色の良く、透き通るような綺麗な肌。人形のように整った顔。さらさらと腰まで届く綺麗な髪、細身でスタイルが良く、すらりと伸びた長い手足。白いワンピースを着た天使のようなかなりの美少女が目の前にいた。




「なに妹の体ジロジロ見てるんです?ご飯できましたから、早く降りて下さい。お兄ちゃん。」




「え?ちょっと待っ…。」




 そう言って、妹はさっさと階下へ降りて行った。…お兄ちゃん?


 ふと、何かを感じる。この世界でなんらかの違和感。それが何なのか…。


 …ま、いいか。さっさと着替えを済ませて、朝ご飯を頂くとするか…。




 そして、僕はその違和感を感じながら着々と朝の支度を済ましていった。






と思ったが、その違和感の正体は…




 朝起きたときからすぐに気付いていたのであった。






 ― ◇ ―


 階段を降りると、すぐにダイニングキッチンとなっており、そこで作りたての料理が出されているのだが…。




「…なにこれ。」




「朝食の鉄板。パンと目玉焼きです。自信作です!」




 と。自信満々に言うので、さぞ素敵な美味しい手作りの朝ご飯が並んでいるのだろう。


 皿の上にのっているのは、どうみても、素敵な黒いナニカでした。ありがとうございます!!見た目は炭なようだが。




「ほろ苦いですが、モソモソとした食感がたまりません!さあどうぞです!!」




 ただの炭です…。ありがとうございます!!




 恐らく、食卓に並んでいる数々の黒い物体は全て炭だろう。一部食べかけのモノがあると言うことは、こいつが食べたのだろう。ただの炭を。




 しょうがない。一生懸命に作ったようだし、やさしい僕は行動で答えてあげよう。そして、僕はの中身を…




 


「いらない。」




 ポイッ。




 捨てた。




「あああああああ!!なんて…、なんてもったいない事をするのです!!」




「誰が、炭を食べる奴があるか。体壊すわ!そもそも、食材が炭になった分、勿体無いわ!!」




「それでも、一生懸命作ったです!!妹の手作り料理が食べれないなんて、凄く勿体無いです!希少価値大です!!しかも、私のような天使の可愛さを持つ美少女が作る手料理なって、どこ探しても…って勝手に朝ご飯、新しく作らないで下さい!!」




「やかましい。こっちは美味しいものを食べたいんだ。そもそも、妹、妹言うけど、僕に妹なんて"居ない"し、もっと言えば、僕に妹と呼べる存在は、この世界に"存在しない"。じゃあ、妹を名乗る君は誰なの?」




 え?と、何か驚いた後、悲しそうな顔をし、俯いたと思ったら、すぐ笑顔になって。




「何です?妹の顏とか名前とか忘れたんです?実花みかです!三浦みうら実花みか!!やだなぁ、本当に忘れっぽいお兄ちゃんです…。」




 ・・・・・。


 ジュ~~~~~~。


 無言になり、たまごが焼ける音がしばらく部屋中に響く。




「あの~。無反応はちょっと、地味に傷つくです…。」




「ここらへんで火を止めておくか。」




「私の事よりも、料理優先!?」




 何故か、ショックを受けたような顔で突っ立っている自称.僕の妹。しょうがない、そこまで僕と話したいなら良いだろう。




「じゃあクイズ。僕の事、お兄ちゃん、お兄ちゃん言うけど、僕の本名は何?」




「それは簡単です!!良いです、答えてあげますです。この天使たる美貌をもつ美少女な妹が答えるです!」




「いーから、はよ答えろ。」




「それでは、答えますです!三浦、三浦…。みうら…。」




 おい、なんで即答できないんだ。妹でしょ?そんなのすぐ答えられるはずだよね?"家族"のはずだよね?おい、なんか自分の体をまさぐりだしたぞ。ポケット突っ込んで何がしたいんだ?あっ、階段あがってった!!まさか、逃げ出したか!?


 …ハァ~。まあいいか。盛り付け終わったし、後は食パンが焼き終わるのを待つだけで…。




「あーーーーーー!!。」




 二階から大声がした後、ドタバタと階段を降りる音がし、




「分かりましたよ!?みはるです!!三浦みうら見晴みはるです!!ふふん、どうです!!この美少女たる妹がお兄ちゃんの名前言い当てました!!これで、私のお兄ちゃんはお兄ちゃんです!!」




 うん、合ってるけど、手に持ってるその紙は何?




「分からないなら、分からないと正直に言って。傷つくから。」




 チーン!




 丁度、オーブンがパンを焼き終わったのを知らせる音が部屋中に響いた。

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