キャピソール

Jack Torrance

第1話 崩壊していく倫理観

暑い一日だった。日は西へ傾き斜日が眩い。今日も1社も仕事は取れなかったな。この調子だと来月には解雇通告だな。私は外回りの営業を終えて会社に戻る前に公園のベンチでソフトクリームをペロペロしながら悲観的な思考に耽っていた。そこに二人組のOLが通り掛かった。スニーカーのソールをキュッキュッと踏み鳴らし若者気取りな感じだがその見た目は実年齢に抗えてはいなかった。私の性的欲求人工知能、略してSDAIが数値を瞬時にはじき出す。左の女性、48歳独身、彼氏イナイ歴15年。右の女性、53歳独身、彼氏いない歴22年。二人とも白や薄いブルーのキャミソールを着用し年甲斐もなくキャピキャピしていた。会社の中では既にお局様待遇で若手女子社員から陰口の対象になっているのだろうが本人達は未だに私達、永遠の若手です、よろしく。年齢を感じさせない弾けっぷりで夜の街に繰り出すのだろう。服のサイズは左の女性が17号。右の女性が19号。だらしなく垂れ下がった胸と尻。長年の飲酒癖と糖質過多によるポッコリ突き出した下腹部。顔は標準サイズよりも大きく肉付きはいいものの愛くるしくて生え際の白髪も枯れつつある熟女の艶を醸し出し何ともいやらしい色気を漂わせていた。それに輪を掛けてキャミソールから覗くブラジャー。私より20以上年上だが不覚にも私は勃起してしまった。彼女達は孤独な夜を自慰行為に耽るかSNSや出会い系サイトで男を漁りその旺盛ではち切れんばかりの性欲を発散しているのだろう。私のペニスはそんな妄想で先程よりも更に1インチ膨張した。その隆起した逸物の上にソフトクリームが垂れた。私の妄想は更にエスカレートしていく。左の女性が言った。「営業のD君、可愛くない?あたし、あの子とだったらオフィスでファックしてもいいな」右の女性が言った。「私は断然J君。あの子だったらあたしトイレでも咥えてあげてもいいよ」私は彼女達の淫らな会話に平静を失い先程までの沈んだ気持ちと裏腹に胸はときめきキャピキャピしてきた。そこに彼女達の正面から白髪の齢70と思わしき身なりの良い老紳士が通り掛かった。ダークグレーのシックなスーツに磨き抜かれた高級革靴。ロマンスグレーと言う形容が似つかわしいダンディな老紳士だ。その老紳士が何を血迷ったのか。突然の暴挙に出た。左の女性の胸の谷間に顔を埋め擦り擦り仕出した。「キャアー、ちょ、ちょっと、おじいさん、何するんですか」すると老紳士は「まあ、いいじゃないか。減るものではあるまいし」と言って身を翻し右の女性の乳房を揉み揉みした。「ちょ、ちょっと止めてください」老紳士はスーツのポケットから徐に100ドル紙幣の札束をちらつかせて、にやりと笑って言った。「金なら腐るほどある。あそこにリムジンを待たせてある。良かったらどうかね、今夜は私とのアーバンナイトを楽しまないかね?」彼女達は札束とリムジンを見てとろんとした目付きになった。「いいですわよ、叔父様。私達を都会の夜へと誘ってくださって」そう言うと老紳士を挟み老紳士の両腕に手を絡ませて手を組みながらリムジンに向かって歩き出した。3人はリムジンに乗り込むと西部劇のエンディングで夕日に向かって馬を駆る主人公のように沈み行く太陽目掛けてリムジンを始動させた。私は金の絶大な力を改めて思い知らされた。この世は金さえあれば全ては己の思い通り。私は今夜は娼婦を買おうと心に誓った。スラックスの尻ポケットから財布を抜き取り中身を改めた。14ドル62セントしか入っていなかった。今夜もあのポルノサイトに世話になるか。公園の水道で蛇口を捻り股間のソフトクリームの染みを落とした。グレーのスーツだったので排尿の切れが悪く尿が漏れたように見えたが私は気にせずに磨り減った革靴のソールを引き摺りながら帰社の途に就く。もう1時間もすれば日は暮れるだろう。鳴り止まない蝉時雨が妙に心に染みた…

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キャピソール Jack Torrance @John-D

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