第18話 勇者との遭遇
「やぁ、また会いましたね」
人好きのしそうな笑顔だが、場所が場所だけに何か企んで居そうに思えたのは俺だけではないのだろう。
ホーリーライト王国の
彼が先の岩水晶大蟹と戦ったメンバーと一緒ということはあのPTもホーリーライトの人々かな。先ほどのルークの口調から察するに「他国の冒険者が承認なしに狩りをする事」は通常行われないイレギュラー事なのだろう。
「調査にしても事前通告なしに他国での戦闘行為は問題になると思いますが、それが教会の試練クエストだとしても」
うちのリーダーのロバートは比較的冷静な口調だが厳しい表情だ。
「ホーリーライトの王都アウレアから
ゲームでは道路標識の類は気にしてなかったがここで会話に口挟むほど
「我等はこの辺りの地理には不馴れゆえ気分を害したのなら済まぬ、正直腕試しの気持ちも有ったのは認めよう」
自分に非があるのを認めたな、倣岸不遜な人物では無い良識ある人物かな? 見た目は頑固そうだが。
「ここから北に300mほど行けば月影湖警邏隊の詰め所があります、そこで来訪理由と無許可狩猟の詫びを報告したほうがよろしいですよ」
腹立たしいのはここに居るグリンワルド住民共通の意識だが、さりとて俺たちには彼らを罰する権限は無い。処分を決めるのは冒険者協会か国の治安活動を担う軍警邏隊の仕事だ。
ロバートもこれ以上追及するのは止めて自分達のクエストに戻る頃合と思ったのだが……
「ご忠告痛みいる、後ほど参上させていただこう」
「ここで会ったのも何かの縁だ、互いの紹介した方が良いと思いますよマクギャバン殿。……エル・ロイカ殿の事もありますし」
向こうのリーダーも謝辞を述べて立ち去ろうとした時に爆弾が落とされた。
「エル・ロイカ」と言う単語が出てロバート達は
俺はいまいちピンと来ないので小声でルークに尋ねる
「
「……エル・ライクじゃなく
ルークの解説によると過去の国家間の戦争でホーリーライト王国は幾度となく
「
40年前の異界からの侵略者との戦い『
なるほど、マクギャバン達一行が単なる魔獣の調査じゃなく「
「異界からの侵略」それはゲームだと「魔族」とか「悪魔」がその役を
だが……それがマッチポンプだとその世界の人が知ったらどうなのだろう
信仰を失い、自暴自棄となり好き勝手に振る舞い、結果世界が荒廃するのか
それとも神に頼らず別の価値観を見出し歩んで行く道を探り進むことが出来るのか
家庭用ゲーム機だと「ラスボスを倒してゲームクリア」と言う終着点が明確にある
……なかには「やりこみ要素」と言ってラスボス倒した後もアイテムコレクションや異性とのラブのすべてのルート解明とかに力入れているソフトも無いでもないが。
「勇者」を持ち出したゲイル・ブロムバッハ
彼の発言を無視できずロバートは
……キノコ森で俺と遭遇したばかりに冒険者協会のお偉方に呼び出されたと、このクエスト受注した後苦笑混じりに俺に話してくれたからな、その気持ちは判らないでもない。
でもそれはなんらかのフラグ立てにならないか?
リーダー同士と言う事で主にロバートとマクギャバンで会話し、俺たちはその傍らで聞く形となる。
向こうのPTリーダーはオーズ・マクギャバン、
はじめ見たときはてっきり
「勇者と旅の同行者と言えば
「
射撃士のゲイル・ブロムバッハはホーリーライトの貴族の四男坊で
父方の祖父は伯爵だがその息子、ゲイルの父親は子爵でホーリーライト王家に拝謁できる地位ではあるが領地はさほど大きくない。
子爵の四男ともなると家督を相続する可能性は低く、伝手で宮殿に文官として仕官できれば御の字で
腕に自身のある者は冒険者となり名を上げて武官にスカウトされて出世して騎士爵となり、地方領を治める代官となる可能性に賭ける。
『神殿』が
その『勇者』は魔法使いらしい青年と二人で
背甲部分と腹甲の間の比較的殻の薄い部分に長剣を刺して亀裂を作り、魔法使いは腕力と器用度上昇の
「ひとまず
倒してから解体するのにあまり時間を掛けるのは良くないのでそう提案する
岩水晶大蟹の表面保護装甲の結晶は魔獣の死後魔力が放散するにつれ急速に質が劣化する。魔力が多く残って居る薄紫色なら武器や防具の加工素材として需要は高いが、魔力がほとんど抜けて濁った白色だと細かく砕いて研磨剤くらいしか
まぁ、表面保護装甲より魔獣の体内に形成される『魔核』の方が価値としては比較にならないけどな。
サイズにもよるが岩水晶大蟹だと最小で鶏卵サイズは有るだろう、成人男性四名の宿泊費の10日ぶんは賄える。
表面装甲の劣化に比べて『核』の劣化はそんなに足が速いものではないが取り出して手早く残骸処理を進めないと核を取り出した後の魔獣の遺骸は異臭と場合によっては瘴気を放つ。「くさい」で済めば可愛いもので下手すると周囲の野生生物の変異を招く原因となる。
彼らの素材採取を手伝う見返りに我々の
とは言っても俺は力仕事は向いてないので魔法で彼らの身体能力一時上昇の
消費したMPもそのくらいならお座り回復で
戦闘開始時とかだとそれらに加えて
……岩水晶大蟹の解体は15分もかからず終了した
ちなみにサイズはソフトボールよりやや小さいくらい青緑色の透き通った煌めきを放っていた。
「肉は食えないかな? 」
魔獣とはいえ死んだらただの大型蟹にしか見えない。蟹と言えばカニすきや焼きガニを思い浮かぶのは日本人の
「
そう教えてくれたのは『調理師』のサブスキルを持つアイリスである
シガテラ毒みたいなものかな、違うかもしれない、異世界だし。
食中毒は
ゲームでは食中毒にかかるイベントとか無かったので知らなかった、ありがとう。
そう、俺のやっていたゲームでは
聞いた噂で運営が正式に認めたわけではないか、なぜそんな謎仕様になったのか
『
食えないならもったいないけど仕方が無い、採取業者が掘ってくれた直径3m深さ2mほどの穴に大蟹の残骸をみんなで放り込みながら確認する。
「瘴気が出るなら焼いたほうが良いかな? 」
「いや、埋めたら大地に
微生物分解による資源の循環か、思ったよりもエコロジーな発想が定着しているんだな。
寄せられていた土を掛け終わって心持ちなだらかな丘になった土饅頭に両手を合わせておく、南無南無。
岩蟹からの魔石採取はマクギャバン達の参加によって意外と早く済んだ
特に『勇者』こと重甲戦士の手際の見事さは目を見張るものだった
本来
「なんか
双剣士のハンスは複雑な心境だろう、重い鎧を着てあのように俊敏な動きを見せられては心穏やかで居られないと推測する。ちなみにこちらはロバートとルーク、俺とハンスの二人組の2ペアで岩蟹狩りをしている。
「見た目はずいぶん若いように見えるけど相当のベテランかな? 」
魔法媒体用杖を使うのはもったいないのでそこらで調達した2mほどの木の棒で押さえ役をしながらそう答える
剣術スキル
この世界だと12歳くらいから
魔石採取後の
残りの
順調そうな流れで足元すくわれるのは有りがちだしな、キノコ森の苦い経験も薄れてないのかな。
「森林警邏隊の駐屯所のそばに冒険者用野営地ありますが、報告後今夜はそこで我々と過ごしますか?」
徒歩だと月影湖からウッドワース
騎乗動物持ちなら四半時間(14~5分)程度で着く距離だが、事情聴取とかはそう短時間では済まないはずだ。
夜間の移動もこの辺りならさほど脅威といえる生物は居ないとはいえ、日が暮れてからの街の出入りは顔見知りならともかく不審者と思われるとそこでまた時間をとられる。
「『郷に入らば郷に従え』との言葉も有りますし、ここは彼らの言うように事情聴取受けた後ここで
「不慣れな土地で夜間に魔獣と鉢合わせは好ましくないですからそうしましょう」
勇者と魔法使いの青年はロバートの提案に賛成する
異世界にも日本のことわざが有るのかとちょっと驚いたが多分翻訳がうまいこと仕事しているのだろう。
岩蟹から採取した魔石はリーダーのロバートが保管して、かさばる素材部分は俺のインベントリーに収納。俺の
まぁゲイル達の獲物を持ってやる義理は無いので言わないで置くが彼らも
俺たちは野営地、マクギャバン達は警邏隊詰め所、
「勇者」らしい重甲戦士はオルラント、魔法使いはクロフォードと名乗った。
オルラントは一月ほど前13歳になったとの事、日本だと小学生から中学生に上がったばかりの年頃か。
冒険者になって永いのかとの問いには冒険者になって3ヶ月ほど、最近ようやく野営にも慣れて来ただと、この世界の平均はどうか知らないが中級スキル使えるのは早すぎじゃないかと思うのだが……
「勇者どのは先の大戦で亡くなられた先代勇者の生まれ変わりであらせられる、成長早いのはその証である」
先を歩いていた{
それは「転生者」と言う事なのか。
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